パーキンソン病で障害年金は受給できる?申請の際に注意すべき点を徹底解説
パーキンソン病は症状が進むにつれ、日常生活への支障が大きくなる疾患の一つです。
現在は医薬品の発達により進行をかなり遅くできるようになっていますが、完治の難しい疾病のため、日常生活や経済面についての将来的な不安が生じます。
しかしパーキンソン病は障害年金の支給対象となりうる疾患です。受給に至れば、経済的な援助を受けつつ治療に専念できます。
ただパーキンソン病に診断されれば、誰でも障害年金をもらえるわけではありません。いくつかの受給要件を満たす必要があります。
本記事では、パーキンソン病で障害年金を受給する際に満たすべき受給要件や、申請を行う際の注意点について詳しく解説しています。今後障害年金の請求を視野に入れている場合には、ぜひこの記事をご参考にしてください。
1.障害年金とは?
障害年金は原則、公的年金に加入している人が病気やケガを原因として、障害により生活に不便が出たり、仕事に制限を受けたりするときに支給される可能性のある年金です。パーキンソン病が発症した場合にも、基準を満たせば障害年金を受給できる可能性があります。
1-1.障害年金の種類
障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、初診日に加入している公的年金の種類によって支給される年金が異なります。
障害基礎年金は、初診日に原則国民年金に加入している方がもらえる障害年金です。
自営業者やフリーランス、無職の方などが支給対象者になります。また第3号被保険者である専業主婦や、20歳前に傷病を負った方も障害基礎年金の支給対象者です。
一方、障害厚生年金は初診日に厚生年金に加入している方を、支給対象とした年金です。障害厚生年金は障害基礎年金に比べて支給対象となる障害の範囲が広く、比較的軽度の障害であっても支給される可能性があります。
なお、障害年金の受給額や請求方法の種類など詳細な情報を知りたい場合には、以下の記事をご覧ください。
2.障害年金における3つの受給要件
受給要件は障害の種類を問わず、障害年金を受給するために満たす必要がある条件を指します。障害年金の受給要件は以下の3種類です。
これらの受給要件について詳しい内容を解説します。
2-1.初診日要件
初診日とは障害の原因になった傷病で、初めて医師等の診察を受けた日のことです。
障害年金を受け取るためには「初診日に原則公的年金に加入している」必要があります。もし公的年金に加入していなかった場合、障害年金を受給できません。
ただし20歳未満の方と60歳以上65歳未満で日本国内に在住されている方は、そもそも公的年金の加入義務がありません。初診日に公的年金制度に加入していなくとも、障害年金を支給される場合があります。
2-1-1.パーキンソン病の初診日の考え方
パーキンソン病はゆっくり進行するため、初診で病名の確定診断を受けるケースは少ないものです。
パーキンソン病の専門的な治療を実施するのは主に脳神経内科ですが、初期症状として気分の落ち込みや意欲の低下などが現れるため、最初に精神科を受診する場合が多くあります。
この場合、精神科をはじめて受診した日が初診日とみなされることがあるため、注意が必要です。
2-2.保険料納付要件
保険料納付要件は、障害年金を受給するための保険料納付状況の基準です。具体的な内容を以下に示します。
- 初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの期間において、3分の2以上保険料を納付または免除されていること。
- 初診日が令和8年4月1日前にある場合については、初診日において65歳未満であり、初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの一年間に保険料の未納がないこと。
上記のうち、いずれかを満たす必要があります。原則として障害年金を受給するためには、初診日の前日時点で保険料納付要件の基準以上に、年金保険料を納めていることが必須です。
2-3.障害状態該当要件
障害年金を受給するためには、障害の状態が障害状態該当要件を満たす程度である必要があります。
具体的には障害の状態が障害等級に該当するかどうかが、障害年金の受給可否における決め手です。障害等級は1〜3級まで存在しており、1級が障害の重い状態、3級が軽度の状態をそれぞれ示します。
また障害等級3級に該当しないほど軽度の障害でも、障害手当金の支給対象となるケースがあります。障害手当金は年金ではありません。一時金としてまとまった金額が支給される制度です。
注意点として障害基礎年金の受給対象者は、障害等級2級以上でなければ障害年金を受給できません。障害等級3級や障害手当金に該当する場合は、障害厚生年金の受給対象者のみ支給されます。
3.パーキンソン病は主に肢体の障害認定基準によって認定がなされる
障害認定基準とは、どの程度の障害であれば障害等級に該当するかについて定めたものです。障害認定基準は障害の種類ごとに設けられています。
例えば眼の障害であれば「眼の障害認定基準」、精神疾患による障害であれば「精神の障害認定基準」といった具合です。パーキンソン病の場合は、主に肢体の障害認定によって判定がなされます。
4.肢体の障害の認定基準
肢体の障害認定基準は多岐にわたる項目があるため、ここではパーキンソン病に関連する項目に絞って紹介します。
令別表 | 障害等級 | 障害の状態 |
国年令別表 | 1級 |
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2級 |
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厚年令別表第1 | 3級 |
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厚年令別表第2 | 障害手当金 |
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上記がパーキンソン病の障害等級を判定するうえでの基準です。ただしパーキンソン病が進行するにつれ日常生活の支障が出るようになるため、障害年金の等級判定においては「日常生活の動作の程度」が考慮されます。
具体的には以下の項目についてお医者さんから評価を受け、その内容は障害年金の請求書類の一つである診断書へと記載されます。
手指の機能
(ア)つまむ(新聞紙が引き抜けない程度)
(イ)握る(丸めた週刊誌が引き抜けない程度)
(ウ)タオルを絞る(水をきれる程度)
(エ)ひもを結ぶ
上肢の機能
(ア)さじで食事をする
(イ) 顔を洗う(顔に手のひらをつける)
(ウ)用便の処置をする(ズボンの前のところに手をやる)
(エ)用便の処置をする(尻のところに手をやる)
(オ)上衣の着脱(かぶりシャツを着て脱ぐ)
(カ) 上衣の着脱(ワイシャツを着てボタンをとめる)
下肢の機能
(ア)片足で立つ
(イ) 歩く(屋内)
(ウ) 歩く(屋外)
(エ)立ち上がる
(オ) 階段を上る
(カ)階段を下りる
上記の項目の評価欄は以下のように「肢体の障害の診断書」に設けられています。
これらの評価は担当のお医者さんが4段階評価で記載します。評価内容は、障害等級の判定に大きく影響を及ぼすため、診断書を作成してもらうお医者さんには、日常生活の状況をしっかり伝えていかねばなりません。
5.パーキンソン病で障害年金を請求する際の注意点
パーキンソン病で障害年金を請求する際に注意すべき点を解説します。
5-1.パーキンソン病でも障害年金の対象になる場合とならない場合がある
パーキンソン病と診断されたからといって、必ずしも障害年金の対象になるわけではありません。
投薬によって症状のコントロールがききづらくなり、オンの時間(症状が抑えられている時間)が短くなる場合に、障害年金の支給対象になりやすいといえます。
一方で投薬によって症状がコントロールできているうちは、障害年金の支給対象にならないケースが多いようです。
障害年金を申請する際の注意点として、初診日は正確に特定する必要があります。障害年金の申請後に初診日に誤りがあることが発覚した場合、不支給につながりかねません。とりわけパーキンソン病については病気の特性上、障害年金を申請する場合に初診日の特定に関連して留意すべき点がいくつかあります。
まずパーキンソン病は脳神経内科で治療を受ける場合が多いものです。しかし、初期症状として落ち込みや意欲の低下が生じることがあるため、先に精神科を受診し、その後脳神経内科に転院しているケースもしばしばあるわけです。
この場合、脳神経内科を初めて受診した日ではなく、精神科を受診した日が初診日とみなされる可能性があるため注意が必要です。
またパーキンソン病は薬で症状がコントロールできているうちは、障害年金の対象になりません。そのため支給対象になる程度まで症状が進む場合、初診日がかなり前になっているケースが多いわけです。
その間に初診の病院が閉院していたりカルテが破棄されていたりするなどして、初診日証明が難しくなることがあります。そのため初診日を証明するための書類「受診状況等証明書」は、初診の医療機関に申し出て早めに取得しておくことをおすすめします。*1
このように転院を繰り返していたり、初診日が相当前にあったりしている場合には、初診日の特定が難しい場合もあります。
*1転院せずに現在も初診の病院に通っている場合は、受診状況等証明書を取得する必要はありません。
5-2.お医者さんと積極的にコミュニケーションを取る
障害年金の請求者が、積極的にお医者さんとコミュニケーションを図る点は、障害年金を受給するためのポイントの一つです。
請求書類の中でも重要な位置付けにある診断書には、お医者さんの客観的な目線で日常生活動作の状況について、適切に反映してもらわねばなりません。
しかしお医者さんが日常生活の様子を全て把握することはなかなか難しいものです。そのためお医者さんと積極的にコミュニケーションを取り、実態を共有する必要があります。
このことにより、お医者さんは日常生活の状況をつかんだうえで、実態と整合性の取れた評価ができるようになるのです。
5-3.診断書の内容は必ずチェックする
お医者さんに作成してもらった診断書の内容は、必ずご自身またはご家族が確認しましょう。先に述べた通り、お医者さんは必ずしも実態の全てを把握して、診断書を作成しているわけではないためです。
もし実態より軽く評価されていると、受給できる年金が少なくなってしまったり、不支給になってしまったりする場合があります。特に「日常生活における動作の障害の程度の欄」の記載内容については、自身で確認しておくべきです。
日常生活における動作の障害の程度の欄は、上のように4段階評価(「◯」「◯△」「△×」「×」)で評価を受けることになります。
評価は杖や補助用具を使用しない状態でなされるべきです。しかし、補助用具を使用した状態の評価が記載されている場合もあるためチェックしましょう。
また動作が出来る場合にしても「時間はかかっていないか」「毎回できるか」「自分で工夫をして行っていないか」なども評価の際に考慮されるべきです。これらを加味したうえで、評価がなされているのかについても、チェックしておくとよいでしょう。
そして、診断書の評価と実態に差があると感じる場合には、もう一度お医者さんのもとを訪れ、相談すべきです。
5-4.病歴・就労状況等申立書を正しく記入する
病歴・就労状況等申立書は診断書と同様、障害年金の請求において重要な書類です。
初診までの経過や、その後の受診状況などをご自身、またはご家族が記入します。日常生活や就労において、パーキンソン病の症状によってどのような支障が出ているかについて明確に訴えることが重要です。
病歴・就労状況等申立書は、第三者の視点で書かれる診断書を請求者の視点から補足する役割を持つため、できる限り具体的に記載することが望ましいでしょう。
なお病歴・就労状況等申立書の記載方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
「病歴・就労状況等申立書が障害年金審査の結果を左右する?書き方と注意点を解説」の記事はこちら
6.障害年金の申請手続きの流れ
障害年金の申請手続きの大まかな流れは、以下のとおりです。
STEP1.年金事務所で初回年金相談を受ける
STEP2.医師に診断書の作成を依頼する
STEP3.病歴・就労状況等証明書を作成する
障害年金の手続きにおける詳しい進め方について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
「障害年金申請手続きの6つのステップを解説!請求の流れをつかめる」の記事はこちら
7.まとめ
この記事では、パーキンソン病で障害年金を受給する際の受給要件や、申請を行う場合の注意点について解説しました。
パーキンソン病は治療により進行を遅らせることができるものの、完治が難しい病気です。
症状が進むと、日常生活のさまざまな面に不便が出てくるため、常時介助が必要になってしまうことも考えられます。
こうした場合に障害年金を受給できれば経済的な支えが得られるため、安心して治療に専念できるのです。ただし、パーキンソン病と診断されれば誰でも障害年金の対象になるわけではなく、3つある受給要件を満たす必要があります。
- 初診日要件
- 保険料納付要件
- 障害状態該当要件
またパーキンソン病で障害年金を申請する際には、注意すべき点が多くあります。
パーキンソン病の傾向として、服薬による症状のコントロールが難しくなった場合に障害年金支給対象になるケースが多いものです。
そのため初診日から障害年金を申請できる状態になるまで長い期間を要する場合が多いため、初診日を証明する書類「受診状況証明書」は、早めに取得しておくとよいでしょう。
さらに障害等級判定においては、診断書に記載される「日常生活における動作の障害の程度」の評価が重要になります。そのため、お医者さんへは、日常生活の状況をしっかり伝えておく必要もあります。
こうした背景からパーキンソン病の症状により体調がすぐれない中、適切な障害年金の請求準備を行うことはなかなか難しい場合があります。こうした場合に、年金制度の専門家である社会保険労務士に相談することにより、適切なアドバイスやサポートを受けられます。
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