統合失調症で障害年金は受けられる?受給要件や注意点を徹底解説

統合失調症は幻覚や妄想、意欲の欠如、自閉などさまざまな症状が現れる精神疾患の一種です。症状が重くなれば日常生活や就労が困難になり、経済的な不安を抱えてしまうかもしれません。
そうした場合に障害年金を受給できれば、経済的に援助を受けながら治療に専念できます。
しかし、統合失調症になれば必ずしも障害年金が受給できるわけではありません。障害年金の受給要件を満たす必要があります。
そこでこの記事では、統合失調症で障害年金を申請する場合に満たすべき受給要件や、申請の際の注意点について解説します。最後までお読みいただきますと、統合失調症で障害年金を申請する際に押さえておくべき点を理解できます。
1.障害年金とは?

障害年金は原則、公的年金に加入している人が病気やケガを原因として、障害により生活に不便が出たり、仕事に制限を受けたりするときに支給される可能性のある年金です。統合失調症によって、日常生活に支障がでるときにも障害年金を受給できる場合があります。
障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、初診日に加入している公的年金の種類によって支給される年金が異なります。
障害基礎年金は、初診日に原則国民年金に加入している方がもらえる障害年金です。
自営業者やフリーランス、無職の方などが支給対象者になります。また第3号被保険者である専業主婦や、20歳前に傷病を負った方も障害基礎年金の支給対象者です。
一方、障害厚生年金は初診日に厚生年金に加入している方を、支給対象とした年金です。障害厚生年金は障害基礎年金に比べて支給対象となる障害の範囲が広く、比較的軽度の障害であっても支給される可能性があります。
なおこの記事では、障害年金制度についてはかんたんな解説にとどめています。障害年金の受給額や請求方法の種類など詳細な情報を知りたい場合には、以下の記事をご覧ください。
2.障害年金における3つの受給要件
受給要件は障害の種類を問わず、障害年金を受給するために満たす必要がある条件を指します。障害年金の受給要件は以下の3種類です。
これら3つの受給要件の内容を解説します。
2-1.初診日要件
初診日とは障害の原因になった傷病で、初めて医師等の診察を受けた日のことです。障害年金を受け取るためには「初診日に原則公的年金に加入している」必要があります。もし公的年金に加入していなかった場合、障害年金を受給できません。
ただし20歳未満の方と60歳以上65歳未満で日本国内に在住されている方は、そもそも公的年金の加入義務がありません。初診日に公的年金制度に加入していなくとも、障害年金を支給される場合があります。
2-1-1.統合失調症の初診日を特定する際の注意点
統合失調症での障害年金申請においては、必ずしも初めて精神科や心療内科を受診した日が初診日になりません。たとえば統合失調症によって初めに生じた症状が幻聴であり、耳鼻科を受診しているようなケースにおいては、耳鼻科を受診した日が初診日になる場合もあります。
2-2.保険料納付要件
保険料納付要件は、障害年金を受給するための保険料納付状況の基準です。具体的な内容を以下に示します。
- 初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの期間において、3分の2以上保険料を納付または免除されていること。
- 初診日が令和8年4月1日前にある場合については、初診日において65歳未満であり、初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの一年間に保険料の未納がないこと。
上記のうち、いずれかを満たす必要があります。
原則として障害年金を受給するためには、初診日の前日時点で保険料納付要件の基準以上に、年金保険料を納めていることが必須です。
2-3.障害状態該当要件
障害年金を受給するためには、障害の状態が障害状態該当要件を満たす程度である必要があります。
具体的には障害の状態が障害等級に該当するかどうかが、障害年金の受給可否における決め手です。障害等級は1〜3級まで存在しており、1級が障害の重い状態、3級が軽度の状態をそれぞれ示します。
また障害等級3級に該当しないほど軽度の障害であっても、障害手当金の支給対象となるケースがあります。障害手当金は年金ではありません。一時金としてまとまった金額が支給されます。
注意点として障害基礎年金の受給対象者は、障害等級2級以上でなければ障害年金を受給できません。障害等級3級や障害手当金に該当する場合については、障害厚生年金の受給対象者のみ支給されます。
ここで気になるのは、統合失調症の状態がどの程度であれば「障害等級に該当するか」ですよね。次の章では、統合失調症における障害認定基準について紹介します。
3.統合失調症における障害認定基準

障害がどの程度の状態ならば、何等級に該当するかについて定めた指針を障害認定基準と呼びます。
障害認定基準は障害の種類ごとに設けられています。
眼の障害であれば「眼の障害認定基準」、肢体不自由である場合は「肢体の障害認定基準」といった具合に適用される障害認定基準が決められており、統合失調症に適用されるのは「精神の障害認定基準」です。
精神の障害認定基準「2 認定要領」には、それぞれの障害等級に該当する統合失調症の状態が例示されています。
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
統合失調症によるものにあっては、高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験が著明なため、常時の援助が必要なもの |
2級 |
統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があるため人格変化、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活が著しい制限を受けるもの |
3級 |
統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があり、人格変化の程度は著しくないが、思考障害、その他妄想・幻覚等の異常体験があり、労働が制限を受けるもの |
統合失調症の判定においては、とりわけ残遺状態の程度が重要なポイントです。残遺状態とは、意欲の低下・感情の鈍化・自閉などの症状を指します。残遺状態によって、常時他者から援助が必要な状態ならば1級、日常生活に制限を受ける程度ならば2級、労働に制限を受ける程度ならば3級といった要領で障害判定されます。
しかし、上記の認定要領における例示のみでは、統合失調症で障害年金の申請を行う人を個別に等級判定することは難しいものです。一言に日常生活や労働に制限を受けていると言っても、個々の障害年金申請者によって状況はさまざまだからです。
そのため統合失調症の等級判定においては「精神の障害に係る等級判定のガイドライン」という障害認定基準とは別の指針を用いて、個々の申請者の状態を詳細に評価し、等級判定を行う流れが取り入れられています。
3-1.「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」とは?
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン(以下、ガイドライン)」とは、精神障害および知的障害に係る認定において、障害等級の判定時に考慮すべき事例や判定時の目安がまとめられた指針です。
精神の障害認定基準を補うかたちで、平成28年9月から運用されています。
ガイドラインを用いた等級判定の進め方は「障害等級の目安」という図表を参考に「総合評価の際に考慮すべき要素の例」で示されたさまざまな要素を考慮したうえで、障害認定審査医員が専門的な判断に基づき、障害等級を判定するといった流れです。
個々の障害年金申請者の日常生活の状況が等級判定に総合的に考慮されることから、この判定方法は「総合判定」と呼ばれています。
次の章ではガイドラインを用いた等級判定の流れについて詳しく解説します。
3-2.障害等級の目安
障害等級の目安は以下のような表で表されます。
判定平均\程度 |
(5) |
(4) |
(3) |
(2) |
(1) |
3.5以上 |
1級 |
1級又は2級 |
|||
3.0以上3.5未満 |
1級又は2級 |
2級 |
2級 |
||
2.5以上3.0未満 |
2級 |
2級又は3級 |
|||
2.0以上2.5未満 |
2級 |
2級又は3級 |
3級又は3級非該当 |
||
1.5以上2.0未満 |
3級 |
3級又は3級非該当 |
|||
1.5未満 |
3級非該当 |
3級非該当 |
障害年金の診断書の記載項目のうち「日常生活能力の程度」の評価が横軸、「日常生活能力の判定」の評価が縦軸に示されており、2つの要素の交わるところが判定の目安となる障害等級です。
「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」について、実際の診断書を基にして解説します。
「日常生活能力の程度」については、診断書で以下のように示されています。

診断書を作成するお医者さん(以下、診断書作成医)が、(1)~(5)のうち日常生活の状況に近いと思われる項目を選択して記載します。
(1)精神障害(病的体験・残遺症状・認知障害・性格変化等)を認めるが社会生活は普通にできる
(2)精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には援助が必要である。
(3)精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
(4)精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。
(5)精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。
(1)~(5)までのうち、どの項目に判定されたかによって「障害等級の目安」の表における横軸の位置が決まります。

一方「日常生活能力の判定」については診断書で以下のように示されています。

「日常生活能力の判定」においては、(1)~(7)までの項目のうち、それぞれ4段階評価で診断書作成医によって判定され、記載されます。
(1)適切な食事
(2)身辺の清潔保持
(3)金銭管理と買い物
(4)通院と服薬(要・不要)
(5)他人との意思伝達及び対人関係
(6)身辺の安全保持及び危機対応
(7)社会性
それぞれの項目の評価の平均が、「障害等級の目安」の表における縦軸の位置に該当します。

このように「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」の平均を組み合わせて、どの障害等級に相当するか示したものが「障害等級の目安」なのです。
たとえば日常生活能力の程度が(3)、日常生活能力の判定の平均が2.8のケースで考えてみます。

この場合「障害等級2級又は3級」が障害等級の目安です。
3-3.総合評価の際に考慮すべき要素
総合評価において「障害等級の目安」は障害等級判定の決め手となる要素のひとつです。しかし「障害等級の目安」のみで障害等級が決まるわけではありません。
総合評価においては、以下の3つの要素を考慮したうえで障害等級が判定されます。

このうち「総合評価の際に考慮すべき要素」とは、診断書の記載項目(「日常生活能力の程度」「日常生活能力の判定」を除く)を5つの分野に区分し、分野ごとに総合評価の際に考慮することが妥当と考えられる要素とその具体的な内容例を示したものです。
ここでは総合評価の際に考慮すべき要素のうち、統合失調症の判定に関わる事項を紹介します。
① 現在の病状または状態像
- 療養及び症状の経過(発病時からの状況、最近1年程度の症状の変動状況)や予後の見通しを考慮する。
- 妄想・幻覚などの異常体験や、自閉・感情の平板化・意欲の減退などの陰性症状(残遺状態)の有無を考慮する。
- 陰性症状(残遺状態)が長時間持続し、自己管理能力や社会的役割遂行能力に著しい制限が認められれば、1級または2級の可能性を検討する。
② 療養状況
- 入院時の状況(入院期間、院内での病状の経過、入院の理由など)を考慮する。
- 病棟内で、本人の安全確保などのために、常時個別の援助が継続して必要な場合は、1級の可能性を検討する。
- 在宅での療養状況を考慮する。
- 在宅で、家族や重度訪問介護等から常時援助を受けて療養している場合は、1級または2級の可能性を検討する。
③ 生活環境
- 家族等の日常生活上の援助や福祉サービスの有無を考慮する。
- 独居の場合その理由や独居になった時期を考慮する。
④ 就労状況
- 労働に従事していることを持って、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事しているものについては、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する。
上記は「総合評価の際に考慮すべき要素」のうち、統合失調症の等級判定に関わる内容を一部抜粋したものです。
「総合評価の際に考慮すべき要素」の全文はガイドラインにて確認できます。
4.統合失調症で障害年金を申請する際の注意点
この章では統合失調症で障害年金を申請する際の注意点を紹介します。
4-1.お医者さんと積極的にコミュニケーションを取る
障害年金の受給をするために、お医者さんとの積極的なコミュニケーションを取ることが重要です。
請求書類の中で特に重要な書類である診断書には、お医者さんの目線で障害等級判定の肝となる「日常生活の状況」について、適切に反映してもらう必要があります。とはいえ短い診察時間のみで、お医者さんがあなたの生活の様子を把握することは困難です。だからこそ、お医者さんへ詳しく日常の不便さや症状のつらさについて伝える必要があります。
お医者さんとの密なコミュニケーションは、障害年金の申請準備をすすめるうえで欠かせません。
4-2.お医者さんに作成してもらった診断書のチェック
お医者さんに作成してもらった診断書は、必ず自身でチェックする必要があります。「病院が作成してくれた書類だから安心だろう」と過信して、そのまま年金事務所へ提出するのはおすすめできません。
日常生活の状況や症状が実態に基づき診断書へ記載されているか、念入りにチェックしましょう。とりわけ統合失調症については、残遺症状(自閉・感情の平板化・意欲の減退など)について、実態に基づいた記載がなされているか確認が必要です。
実態よりも軽度に書かれている場合、もらえるはずだった金額より受給額が少なくなってしまったり、本来年金の受給に値する程度なのに不支給になってしまったりする恐れがあります。診断書をチェックしたうえで修正が必要と思われる箇所を見つけた場合には、再度お医者さんの元を訪れ、修正の相談を行いましょう。
4-3.病歴・就労状況等申立書を正しく記入する

病歴・就労状況等申立書は診断書と同様、障害年金の請求において重要な書類です。第三者の視点で書かれる診断書を、請求者の視点から補足する役割を持ちます。
統合失調症の発病から初診までの経過や、その後の受診状況などをご自身またはご家族が記入します。日常生活や就労において、どのような支障が出ているかについて具体的に書くことも重要です。
一方で「働けなくて経済的に困っている」といった具合に、切実な感情を書いてしまう方がいらっしゃいます。気持ちはわかるのですが「診断書の内容を補足し適正な障害認定に結びつける」という、病歴・就労状況等申立書本来の役割を果たせなくなってしまうため注意が必要です。
なお病歴・就労状況等申立書の記載方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
5.障害年金の申請手続きの流れ
障害年金の申請手続きの大まかな流れは、以下のとおりです。
STEP1.年金事務所で初回年金相談を受ける
STEP2.医師に診断書の作成を依頼する
STEP3.病歴・就労状況等証明書を作成する
障害年金の手続きにおける詳しい進め方について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
6.まとめ
この記事では、統合失調症における障害年金申請についての受給要件や、押さえておくべき注意点について解説しました。
統合失調症は、意欲の欠如や自閉などさまざまな症状が現れる精神疾患です。症状が重くなれば、日常生活に深刻な支障をきたすケースがあります。こうした場合に、障害年金を受給できれば、経済的に安心感を得ながら治療に専念できます。
統合失調症には予後不良の可能性があるため、比較的障害認定を受けられるケースが多い疾病です。しかし、受給要件を全て満たしていなければ障害年金は受け取れません。
また申請に際してはお医者さんとコミュニケーションを十分に取ったり、診断書をチェックしたりと、いろいろ気をつけなければならないものです。よって障害年金を申請をする際には、わからないことがたくさん生じるかと思います。
そこで当センターでは初回無料で障害年金に関するご相談を承っております。
当センターは、精神の障害に関わる障害年金申請代行を専門的に行っています。あなたの持つ疑問や悩みにお答えいたしますので、お気軽にご利用くださいませ。
7.当センターでの事例紹介
当センターに障害年金申請代行のご依頼をいただき、障害年金受給に結びついた事例をいくつかご紹介いたします。
事例1. 妄想型統合失調症での受給
50代女性 |
|
年金の種類 |
障害基礎年金2級 |
請求方法 |
事後重症請求 |
年金額 |
年間約80万円 |
女性は約24年前に発病し投薬治療を開始しています。
幻聴や幻覚の症状がありながらも、治療を継続することでしだいに症状は落ち着き、パートとしてパソコン入力作業やレジ打ちの仕事などを行えていました。
しかし、数年前にお父様が他界した直後から症状が再燃するようになり、精神不安定になってしまいます。現在は旦那様の全面的なサポートにより最低限の家事、炊事を行ってはいるものの、一つ一つの動作に時間を要したり、旦那様の見守りや声掛けが必要な状況です。
本案件では初診日がかなり古い時期にあったため、初診医療機関にはカルテが保存されていなかったものの、残存していた受診受付簿から初診日証明が可能となり、障害年金の受給に至っています。
事例2. 統合失調症での受給
20代男性 |
|
年金の種類 |
障害基礎年金2級 |
請求方法 |
事後重症請求 |
年金額 |
年間約80万円 |
男性は高校一年生の頃から、友人と上手く会話が出来なくなったり、授業の内容が頭に入らなかったり、電車やバスに乗ることが怖くなったりと時々心身の不調を感じるようになりました。
ある日、突然学校に行くことが出来なくなったため、親とともに近くの小児科を受診したところ専門科の受診を勧められ、近隣のメンタルクリニックに通うこととなりました。
その後、転院を何度か繰り返し薬も度々調整してもらいますが、病状は一進一退を繰り返し、思うような治療効果は得られません。不安感から学校へ登校できない状況が続いたため通信制高校に転校しました。高校卒業後も症状は重く、緊急措置入院に至ることもあったようです。
現在は自宅に引きこもりがちの生活が続いており、一人での外出が困難な状況にあります。また薬の副作用からくる手の震えや排尿障害などにも悩まされている状況です。