高次脳機能障害で障害年金はもらえる?申請する際の5つの注意点を紹介

高次脳機能障害を発症する場合、集中力が続かなかったり約束を忘れてしまったりと、仕事上でトラブルに見舞われてしまうこともしばしばです。
障害が重くなると就労が難しくなり、経済的に困窮してしまうこともあります。こうした場合にも、障害年金を受給できれば経済的な安定を手に入れられるため、安心して治療に専念できます。
とはいえ高次脳機能障害で障害年金を申請する場合には、注意すべきポイントが多いものです。この記事では、高次脳機能障害で障害年金を申請する際に押さえておくべき、受給要件や申請上の注意点について解説します。
1.高次脳機能障害とは?
高次脳機能とは、言語・記憶・注意・判断など、大脳で営まれている機能の総称です。外傷や病気を原因として脳が損傷を受け、高次脳機能の一部に問題が生じることを「高次脳機能障害」と呼びます。
高次脳機能障害が発症しても、外見に障害が現れるわけではありません。周囲の人や本人でさえ、障害を負っていることを認知しづらいのが、高次脳機能障害の特徴です。
とはいえ約束や仕事の手順を覚えられなかったり、感情がコントロールできなくなり周囲から誤解を受けてしまったりと、問題を多く抱えてしまうため、就労困難になるケースもあります。
2.障害年金の概要
障害年金は公的年金に加入している人が病気やケガを原因として、障害により働けなくなったり、仕事に制限を受けるようなときに支給される年金です。
高次脳機能障害についても、要件を満たせば障害年金を受給できます。障害年金を受給できれば、高次脳機能障害を理由として日常生活に支障が出ている場合にも、経済的な援助が受けられるため、生活の安心感が大きく向上します。
障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、初診日に加入している公的年金の種類によって支給される年金が異なります。
障害基礎年金は、初診日に原則国民年金に加入している方がもらえる年金のことです。
自営業者やフリーランス、無職の方などが対象になります。また第3号被保険者である専業主婦や、20歳前に傷病を負った方も障害基礎年金の支給対象に該当します。
一方、障害厚生年金は初診日に厚生年金に加入している方を、支給対象とした年金です。
障害厚生年金は障害基礎年金に比べて支給対象となる障害の範囲が広く、軽度の障害であっても支給される可能性があります。
なおこの記事において、障害年金制度については概要の解説にとどめています。障害年金の受給額や請求方法の種類といった、より詳細な情報を知りたい場合には以下の記事をご覧ください。
2-1.障害年金の受給要件
障害年金の受給要件は障害の種類や重さを問わず、障害年金を受給するために満たしていることが必要です。受給要件には以下の項目があります。
- 初診日に原則公的年金に加入していること
- 初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの期間において、3分の2以上保険料を納付または免除されていること。または初診日が令和8年4月1日前にある場合については、初診日において65歳未満であり、初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの一年間に保険料の未納がないこと。
- 障害認定日に障害年金を受給できる障害の程度(障害等級)に該当すること
なお20歳未満の方と60歳以上65歳未満で日本国内に在住されている方は、公的年金の加入義務がありません(厚生年金被保険者である場合を除く) 。よって初診日に年金制度に加入していなくとも、障害年金が支給される場合があります。
2-2.高次脳機能障害の初診日
初診日とは、原則障害の原因になった傷病で初めて医師等の診療を受けた日のことです。障害年金の受給要件には、初診日が深く関わっています。そのため初診日を正しく特定する点が大変重要なのです。
高次脳機能障害の初診日は、病気に起因するものと事故に起因するもので異なります。くも膜下出血や脳梗塞などの病気で高次脳機能障害を発症した場合、原因となった病気で初めて医師等を受診した日が初診日です。一方、事故によって高次脳機能障害を発症した場合には、事故で病院へ初めて行った日(救急搬送された日を含む)が初診日にあたります。
申請準備を進めていくうえで、後々初診日が正しく特定できていないことが判明した場合、準備が最初からやり直しになる恐れがあります。
とはいえ初診日を正しく特定することは、初めて障害年金の申請準備を行う方にとっては、なかなか難しい面があります。そのため年金制度の専門家である社会保険労務士へ相談することは、確実に申請準備を進める手段の一つです。
当センターでは、障害年金に関する電話でのご相談を無料で承っております。ご利用の際は以下のリンクよりお申し込みください。
2-3.障害年金を受給できる障害の程度とは?
高次脳機能障害が発症しているならば、誰でも障害年金が受け取れるというわけではありません。先に紹介した障害年金の受給要件の項目3.にあるように、高次脳機能障害の程度が障害等級1〜3級に該当する場合に支給が限られます。
「障害認定基準 第8節 精神の障害」では、各等級に相当するとされる高次脳機能障害の状態の目安が、以下のように示されています。
障害の程度 | 障害等級 | 障害の状態 |
重
↑ 軽 |
1級 | 高度の認知障害、高度の人格変化、その他の高度の精神神経症状が著明なため、常時の援助が必要なもの |
2級 | 認知障害、人格変化、その他の精神神経症状が著明なため、日常生活が著しい制限を受けるもの ※1級と異なり常時誰かの介助を受ける必要はないが、日常生活に支障がある程度 |
|
3級 (障害厚生年金の対象者のみ受給を受けられる) |
1 認知障害、人格変化は著しくないが、その他の精神神経症状があり、労働が制限を受けるもの 2 認知障害のため、労働が著しい制限を受けるもの |
高次脳機能障害の場合、日常生活や社会生活にどのくらい制約を受けているかが、障害等級の判断基準の大元となります。
高次脳機能障害の症状として、失語症の症状が出ている場合には、「精神の障害」と「音声または言語機能の障害」を併合して、より高い障害等級での認定を視野に入れられるケースもあります。
失語症は「第6節/音声又は言語機能の障害 」に障害認定基準が示されております。
障害の程度 | 障害等級 | 障害の状態 |
重
↑ 軽 |
2級 | 音声又は言語機能に著しい障害を有するもの (日常会話が誰とも成立しない程度) |
3級 (障害厚生年金の対象者のみ受給を受けられる) |
言語の機能に相当程度の障害を残すもの (互いに内容を推論したり、たずねたり、見当をつけることなどで日常会話が部分的に成り立つ程度) |
高次脳機能障害を原因として手足にマヒが残る場合があります。この場合は「精神の障害」と「肢体の障害」を併合して、より高い障害等級での認定を視野に入れられる場合もあります。肢体の障害認定基準について、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
「肢体の傷病における障害年金の認定基準と、申請の注意点を徹底解説!」の記事はこちら
このように高次脳機能障害で障害年金を申請する場合、基本的には「精神の障害」の認定基準を元に、障害等級判定が行われます。しかし、場合によっては「肢体の障害」や「音声または言語機能」の障害を併合して、より高い障害等級で判定される可能性がある点を押さえておきましょう。
3.障害等級判定の流れ
ここまでに紹介した、障害認定基準はあくまで判定の目安です。実際の障害等級の判定の流れとしては、障害認定審査医員が「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」に基づき、一人ひとりの状況を考慮しながら障害等級を判定します。
障害等級の判定は障害の重さのみではなく、生活の実態についても総合的に考慮して進められるため「総合判定」と呼ばれています。
高次脳機能障害が軽度であったり就労していたりしても、障害が生活に与える影響の度合いが大きいと判定される場合には、受給に結びつく可能性があります。
3-1.精神の障害に係る等級判定ガイドライン」とは?
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン(以下、ガイドライン)」は、等級判定の地域差や不公平をなくすために策定されたものです。
現在は、障害認定基準 第8節 精神の障害とガイドラインを併せて判定されることになります。これから高次脳機能障害における障害年金の申請をするうえで、ガイドラインの内容をしっかり押さえておく必要があります。
3-1-1.障害等級の目安
ガイドラインでは「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」という2種類の要素が考慮され、障害等級の目安が大まかに決まります。
障害等級の目安は以下のような表で表されます。
判定平均\程度 | (5) | (4) | (3) | (2) | (1) |
3.5以上 |
1級 | 1級又は2級 | |||
3.0以上3.5未満 | 1級又は2級 | 2級 | 2級 | ||
2.5以上3.0未満 | 2級 | 2級又は3級 | |||
2.0以上2.5未満 | 2級 | 2級又は3級 | 3級又は3級非該当 | ||
1.5以上2.0未満 | 3級 | 3級又は3級非該当 | |||
1.5未満 | 3級非該当 | 3級非該当 |
「日常生活能力の程度」の評価が横軸、「日常生活能力の判定」の評価が縦軸に示されており、2つの要素の交わるところが判定の目安となる障害等級です。
「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」は、障害年金の申請について最重要書類となる診断書の裏面に記載されています。そのためここでは、実際の診断書をお見せしながら解説します。
「日常生活能力の程度」については診断書で以下のように示されています。

診断書を作成する医師(以下、診断書作成医)が、(1)~(5)のうち日常生活の状況に近いと思われる項目を選択して記載することとなります。
- (1) 精神障害(病的体験・残遺症状・認知障害・性格変化等)を認めるが、社会生活は普通にできる。
- (2) 精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には、援助が必要である。
- (3) 精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
- (4) 精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。
- (5) 精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。
(1)~(5)までのうち、どの項目に判定されたかによって「障害等級の目安」の横軸の位置が決まります。

一方「日常生活能力の判定」については診断書で以下のように示されています。

「日常生活能力の判定」においては、(1)~(7)までの項目のうち、それぞれ4段階評価で診断書作成医によって診断され、記載されます。
- (1)適切な食事
- (2)身辺の清潔保持
- (3)金銭管理と買い物
- (4)通院と服薬(要・不要)
- (5)他人との意思伝達及び対人関係
- (6)身辺の安全保持及び危機対応
- (7)社会性
それぞれの項目の評価の平均が、「障害等級の目安」の表における縦軸の位置に該当します。

このように「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」の平均を組み合わせて、どの障害等級に相当するか示したものが「障害等級の目安」なのです。
たとえば日常生活能力の程度が(3)、日常生活能力の判定の平均が2.8のケースで考えてみます。

この場合「障害等級2級又は3級」が障害等級の目安です。
3-2.総合評価の際に考慮すべき要素
「総合評価の際に考慮すべき要素」とは、診断書の記載項目(「日常生活能力の程度」「日常生活能力の判定」を除く)を5つの分野に区分し、分野ごとに総合評価の際に考慮することが妥当と考えられる要素と、その具体的な内容例を示したものです。
5つの分野とは以下のものを指します。
- 現在の病状または状態像
- 療養状況
- 生活環境
- 就労状況
- その他
総合評価において、「障害等級の目安」は障害等級判定の決め手となる要素のひとつです。しかし、障害等級の目安のみで障害等級が決まるわけではありません。
診断書等に記載されている他の内容も含め、認定医によって総合的に障害等級が判断されるのが総合評価の趣旨です。

高次脳機能障害の観点から「総合評価の際に考慮すべき要素」についてポイントとなる事項を紹介します。
1. 現在の病状または状態像
認定の対象となる複数の精神疾患が併存している場合は、諸症状を総合的に判断したうえで、障害等級が考慮されます。
2. 療養状況
通院の頻度や治療内容が考慮されます。また、家族や重度訪問介護等から常時援助を受けて在宅で療養している場合は、1級または2級の可能性が検討されます。
3.生活環境
家族等の日常生活上の援助や福祉サービスを受けている場合には2級の可能性が検討されます。現在、家族等の援助や福祉サービスを受けていなくとも、支援の必要があるとみなされる場合も同じく、2級の可能性が検討されます。
4.就労状況
労働に従事しているからといって、すぐに日常生活能力が向上したと判断されることはありません。仕事場で受けている援助の内容や就労状況などを確認されたうえで、「日常生活の能力の程度」が判断されます。
5.その他
「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」の内容に整合性がとれていなかったり、「日常生活能力の程度」の平均点が低くとも、特定の項目に大きな支障が生じていたりする場合には、障害等級判定の際に考慮されます。
4.高次脳機能障害で障害年金を申請する際の5つのポイント

高次脳機能障害で障害年金を申請する際のポイントは以下のとおりです。
4-1.自身の症状を詳しく把握する
申請準備を進めるうえで、ご自身の症状を正確につかんでおくことは、障害年金の受給につなげるための重要なポイントといえます。お医者さんに診断書の作成を依頼する際や、病歴・就労状況等申立書を作成する際にご自身の症状を理解していないと、適切な内容の書類を揃えられなくなるためです。
とはいえ高次脳機能障害の症状は多岐にわたるため、ご自身すら把握できていない障害が発生しているかもしれません。よって、高次脳機能障害の症状と具体的な症例を紹介します。ご自身の症状を把握するためのチェックリストとしてご活用ください。
1.記憶障害
直近のことを思い出せなくなったり、約束を忘れてしまったりする障害。就労や日常生活に支障が出る度合いがとりわけ大きいため、障害認定の際、重要な評価ポイントになる。
具体的な症例
- 昨日どこへ行ったか忘れてしまう
- 約束を忘れる
- 仕事の手順を覚えられない
2.注意障害
仕事に対する集中力が続かなくなる一方で、作業を開始すると周囲からの声かけに反応できなくなったりする障害。
具体的な症例
- ボーッとしてしまう
- 火を消し忘れる
- 外部の音が気になり、仕事に集中できなくなる
3.遂行機能障害
物事の優先順位をつけられなくなったり、効率的に作業を進められなくなったりする障害。
具体的な症例
- 家事を計画的にこなせなくなる
- 仕事のトラブルを解決できなくなる
4.社会的行動障害
自分の行動や感情をコントロールできなくなる障害。
具体的な症例
- やる気や元気がなくなる
- 怒りやすくなる
- 暴言を発する
- 一つのことにこだわる
- 感情が顔に出やすくなる
5.半側空間無視
目の前の空間のうち、半分(多くは左側)に注意が向かなくなる障害
具体的な症例
- 食事をしているとき、左に置いてあるおかずだけ残してしまう
- 移動中、左側にあるものにぶつかる
6.失語症
上手に話せなかったり字が読めなくなったりと、読み書きに関する障害。
具体的な症例
- うまく話せなくなる
- 字が読めなくなる
- 相手の話が理解できない
7.失行症
麻痺を伴っていないが、意図した動作や指示された動作ができなくなる障害。
具体的な症例
- ハサミやはし、歯ブラシなど、これまで使えていた道具の使い方が分からなくなる
- 洗濯機や電子レンジなど、家電の使い方が分からなくなる
8.地誌的障害
地理や場所が分からなくなる障害。
具体的な症例
- よく知っている場所で道に迷う
- 地図を使えない
- 目的地にたどり着けない
9.失認症
見ているもの、聞いているもの、触っているものが分からなくなる障害
具体的な症例
- よく知っている人のはずなのに、誰だか分からない
- 慣れ親しんだもののはずなのに、目の前に見えているものが何かわからない
以上のように高次脳機能障害の症状は多岐にわたります。そのため「言われてみれば心当たりがあるかもしれない」といった症状があるかもしれません。一項目ずつチェックしながら、自身の症状をもれなく把握しましょう。
4-2.精神の障害の診断書以外にも、診断書を添付したほうが良いケースもある
障害年金の審査方法は申請者から提出された書類による審査です。そのため障害認定基準の内容を理解して、適切な内容の書類をそろえる必要があります。
障害の発症している部位ごとに診断書が存在しており、高次脳機能障害の場合には、主に精神の障害の診断書を使用します。
しかし、高次脳機能障害によって失語症の症状があったり、手足にマヒが残る場合には複数の診断書を提出したほうが、より高い等級で認定を受けられるケースがあります。このように2つ以上の障害を対象として、障害等級の認定を受けることを併合認定と呼びます。
失語症ならば「音声又は言語機能の障害」の診断書、手足のマヒならば「肢体の障害」の診断書といった具合に、「精神の障害」の診断書と併せて提出して、より高い障害等級で認定を受けられる可能性があるわけです。
ただし2つ以上の障害があれば、必ず障害等級が高くなるわけではありません。併合認定には細かな基準が設けられています。基準を理解せずに複数の診断書を提出しても、思うような結果につながらない場合もあります。
併合認定を行うべきか否かの判断は、専門家でないと難しい面があるものです。もし高次脳機能障害によって失語症や手足のマヒなどの症状が出ているならば、ぜひ当センターへご相談ください。担当者とベストな申請方法を考えていきましょう。

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4-3.お医者さんと、積極的にコミュニケーションを取る
請求する側が、お医者さんと積極的にコミュニケーションを図ることが、障害年金を受給するために重要です。
特に重要な書類である診断書には、お医者さんの客観的な目線で、障害等級の判定の肝となる日常生活の能力について、適切に反映してもらわねばなりません。
とはいえ短い診察時間のみで、お医者さんが生活の様子を把握することは困難です。
そのため申請する側から、「生活のどのようなところに、不自由や不便を感じているか」や「家族からは、どんなサポートを受けているのか」といった点を、お医者さんへ詳しく伝えねばならないのです。
このようにお医者さんとのコミュニケーションは障害年金の申請準備をすすめるうえで、欠かせないものです。
4-4.お医者さんに作成してもらった診断書のチェック
お医者さんに作成してもらった診断書は、必ずご自身でチェックする必要があります。医療機関が作成してくれた書類だから安心だろうと過信して、そのまま年金事務所へ提出するのは危険です。
日常生活の状況や症状が現況に基づき表現されているか、症状がもれなく書かれているかについて、厳しい目でチェックしましょう。
実態よりも症状や生活への影響が軽く書かれてしまっている場合、もらえるはずだった金額より、受給できる金額が少なくなってしまったり、不支給になってしまったりといった恐れがあります。
チェック後に修正して欲しい箇所を見つけた場合には、再度お医者さんの元を訪れ修正の相談を行いましょう。
4-5.病歴・就労状況等申立書を正しく記入する

病歴・就労状況等申立書は障害年金の審査において、診断書と同様に重要な書類です。第三者の視点で書かれる診断書を、請求者の視点から補足する重要な役割を持っています。
発病から初診までの経過や、その後の受診状況、生活状況などをご自身、またはご家族が記入する必要があります。また、高次脳機能障害によってどんな症状が出ていて、日常生活や就労の際にどのような支障が出ているかについて、具体的に書くことも大切です。
そのため、ご自身の症状をしっかり把握しておくと病歴・就労状況等申立書を作成する際に大変役立ちます。
一方で、「働けなくて経済的に困っている」といった具合に、切実に抱く感情を書いてしまう方がいらっしゃいます。
この場合、「診断書の内容を補足し、適正な障害認定を行ってもらう」といった、病歴・就労状況等申立書本来の役割を果たせなくなってしまうため注意が必要です。
病歴・就労状況等申立書は以下のページよりダウンロードできます。
「日本年金機構ホームページ | 病歴・就労状況等申立書を提出するとき」
5.障害年金の申請手続きの流れ
障害年金の申請手続きの大まかな流れは、以下のとおりです。
- STEP1.年金事務所で初回年金相談を受ける
- STEP2.医師に診断書の作成を依頼する
- STEP3.病歴・就労状況等証明書を作成する
障害年金の手続きにおける詳しい進め方について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
障害年金申請手続きの6つのステップを解説!請求の流れをつかめる
6.まとめ

この記事では、高次脳機能障害で障害年金を申請する際に知っておくべきことを解説しました。
高次脳機能障害で障害年金を申請する際には、障害の重さのみならず、日常生活や就労の際にどのような不便や不自由が生じているかが重要となります。そのためお医者さんに日常生活の状況をしっかり伝えて、適切な内容で診断書を作成してもらう必要があるのです。
障害年金の申請においては、留意すべき点が多いため「自分には難しそう」と感じるかもしれません。ご自身で障害年金の準備が難しいときには、公的年金制度のプロである社労士に、申請代行を依頼する手段があります。
障害年金申請代行を利用すれば、障害年金の申請におけるご自身の負担を減らしながら、年金受給の可能性を広げることができます。
なお障害年金申請についてお困りの際は、当センターの無料相談をご利用ください。
7.当センターでの高次脳機能障害における受給事例
当センターに障害年金申請代行のご依頼をいただき、障害年金受給に結びついた事例をご紹介いたします。症状や生活の状況などを、ぜひ参考にしてください。
7-1.事例1. 高次脳機能障害(50代男性)
年金の種類 | 障害厚生年金2級 |
請求方法 | 事後重症請求 |
年金額 | 年間約130万円 |
男性は自宅で入浴中に激しい頭痛に襲われ、意識を失い総合病院へと救急搬送されました。
くも膜下出血と診断され、緊急手術を受けています。幸い運動機能の障害は認められず、1ヶ月後に退院し職場復帰を果たしました。最初は以前と同様の業務に従事していましたが、体力的にも精神的にも徐々に就労が辛く感じるようになります。
職場復帰後2〜3年経過した頃から、長時間作業に集中できなかったり、日付を忘れたり、同じ物品を沢山購入したり、急に怒り出したりといった症状が顕著になりました。やがて就労継続が困難となり、事実上解雇されてしまいます。
退職後、再び自宅で激しい頭痛に襲われ緊急手術を行いました。術後は、右上肢に軽度麻痺が残存し、高次脳機能障害の診断を受けるに至ります。約3ヶ月間のリハビリ入院を経て自宅療養となり、精神障害者保健福祉手帳2級を取得。週2日、就労継続支援B型作業所への通所を開始しました。
現在、日常生活においては自発的発言が少なく、作業所への通所がない日は、ぼーっとテレビを見て1日過ごすことが多く、食事準備、掃除、金銭管理、契約事等は同居する家族が全て行っている状況です。
7-2.事例2. 左視床出血・高次脳機能障害(50代男性)
年金の種類 | 障害厚生年金1級 |
請求方法 | 障害認定日請求 |
年金額 | 年間約140万円 |
男性は自宅で倒れて動けずにいたところを職場同僚に発見され、病院へ救急搬送されました。左視床出血と診断され、緊急手術を受けています。術後は右片麻痺、失語症、軽度の構音障害、嚥下障害、高次脳機能障害など様々な障害が残りました。
術後間もなくリハビリを開始しましたが、倒れる以前の記憶が曖昧で、色々質問されても的確な答えを返すことが出来なかったそうです。また日用品を見せられても名前が思い出せず、普段使用しているパソコンの操作方法も分からなくなってしまいました。
さらに感情のコントロールが出来なくなり、声を荒げたり物に当たったりするようになります。運動機能や失語の症状も回復せず、ついには車いすの生活となってしまいました。コミュニケーションが困難な状況のため、現在は介護施設に入所し、施設職員の介助を受けながら生活をしている状況にあります。