肢体の傷病における障害年金の認定基準と、申請の注意点を徹底解説!
ご自身やご家族が肢体に障害を負ってしまった場合には、障害年金を受け取れる可能性があります。
ただし肢体の障害における障害年金の認定基準はやや複雑な面があります。また診断書の内容と実態との整合性が取れていない場合には、受け取れる金額が少なくなったり、不支給になったりする恐れもあります。
この記事では、肢体の障害における障害年金の認定基準や、お医者さんに作成してもらった診断書をチェックするポイントについて解説します。
最後までお読みいただきますと、肢体の障害で障害年金を申請する際に押さえておくべきことを理解できるようになりますので、参考にしてみてください。
1.障害年金とは?
障害年金は公的年金に加入している人が、病気やケガを原因として障害により働けなくなったり、仕事に制限を受けるようなときに支給される年金です。
事故により上肢や下肢の一部を欠いてしまったり、脳の障害で腕や足を自由に動かせなくなったりといった場合においても、受給要件を満たせば障害年金を受け取れます。
以下に、肢体の障害に当てはまる症例をいくつか紹介します。
くも膜下出血、脳梗塞、脳出血、関節リウマチ、筋ジストロフィー、脊髄損傷、パーキンソン病、人工関節など
1-1.障害年金の種類
障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、初診日に加入していた公的年金の種類によって支給される年金が異なります。
障害基礎年金は、初診日に原則国民年金に加入している方がもらえる年金のことです。
自営業者やフリーランス、無職の方などが対象になります。また第3号被保険者である専業主婦や、20歳前に傷病を負った方も障害基礎年金の支給対象に該当します。
一方、障害厚生年金は初診日に厚生年金に加入している方を支給対象とした年金です。
障害厚生年金は障害基礎年金に比べて支給対象となる障害の範囲が広く、軽度の障害であっても支給される可能性があります。
1-2.障害年金の受給要件
障害年金を受け取るためには、以下の受給要件を満たす必要があります。
- 初診日に原則公的年金に加入していること
- 初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの期間において、3分の2以上保険料を納付または免除されていること。または初診日が令和8年4月1日前にある場合については、初診日において65歳未満であり、初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの一年間に保険料の未納がないこと。
- 障害認定日に障害年金を受給できる障害の程度(障害等級)に該当すること
3つ目に紹介した障害等級には1級〜3級まであり、いずれかの等級に該当する障害の程度であることが受給要件の一つです。1級が最も重い障害、3級は軽度の障害を示し、障害等級に応じてもらえる年金額は異なります。
また障害等級3級については、障害厚生年金が受給できる場合には支給対象となりますが、障害基礎年金のみ受給できる場合には支給対象にはなりません。
なお障害年金を受給した場合にいくらもらえるかは、以下の記事で詳しく解説しておりますので併せてご覧ください。
「障害年金とは?」の記事はこちら
障害年金の申請手続きの進め方につきましては、こちらの記事が参考になります。
「障害年金申請手続きの6つのステップを解説!請求の流れをつかめる」の記事はこちら
2.肢体の障害における障害年金認定基準
障害等級は傷病ごとに設けられた障害認定基準に基づいて、総合的に判断されます。ここでは「肢体の障害」における認定基準について解説します。
2-1.障害認定に当たっての基本的事項
「肢体の障害」における障害認定基準の解説に入る前に『障害認定に当たっての基本的事項』に触れていきます。
基本的事項には肢体の障害だけでなく、いずれの傷病においても適用される、障害の程度と障害等級の関係性についての基礎となる考え方が示されています。
以下は基本的事項の一部を抜粋したものです。
障害等級 | 障害の程度 |
1級 | 日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
2級 | 日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
3級 ※障害厚生年金のみ支給 |
労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度のもの |
たとえば障害等級1級なら「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」と明示されています。要するに周囲の人の介助がなければ、身の回りのことがほとんどできないような状態が1級に該当すると考えられます。
このように『障害認定に当たっての基本的事項』を読めば、「障害認定」の基本的な考え方を知ることができます。
『障害認定に当たっての基本的事項』の全文は以下のページに記載されています。
日本年金機構ホームページ「障害認定に当たっての基本的事項」
とはいえ基本的事項のみでは、個々の障害がどの程度の障害等級に該当するかを判定するには、内容が大まかすぎるともいえます。
正確に障害等級を判定するために「肢体の障害の障害認定基準」や「精神の障害の障害認定基準」といった具合に、細分化された障害認定基準が設けられているのです。
2-2.肢体の障害は4つの種類に区分される
「肢体の障害」は障害年金制度において、以下の4種類に区分されます。
肢体の障害の種類 | 適用となる傷病の例 |
①上肢の障害 | 肩や手の機能障害、欠損及び変形障害 |
②下肢の障害 | 下肢の機能障害(人工関節含む)、欠損障害、変形障害、短縮障害 |
③体幹・脊柱の機能の障害 | 脊髄性小児麻痺、脳性 麻痺、脊柱の脱臼骨折によって生じる運動機能障害など |
④肢体の機能障害 | 脳血管障害や進行性筋ジストロフィーなどによる上肢・下肢両方にわたる広範囲の障害 |
以上のように肢体の障害は4種類に分けられ、障害認定基準もそれぞれ異なるものが適用されます。
次に障害等級別に上肢と下肢の障害の程度における例示を、障害認定基準より抜粋して紹介します。
障害等級 | 肢体の障害の種類 | 障害の程度の例示 |
1級 | 上肢の障害 | 両上肢の全ての指を欠くもの 両上肢の全ての指の機能に著しい障害を有するもの |
下肢の障害 | 両下肢の機能に著しい障害を有するもの 両下肢を足関節以上で欠くもの |
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2級 | 上肢の障害 | 両上肢のおや指及びひとさし指又は中指を欠くもの 一上肢の全ての指を欠くもの 一上肢の機能に著しい障害を有するもの |
下肢の障害 | 両下肢の全ての指を欠くもの 一下肢の機能に著しい障害を有するもの 一下肢を足関節以上で欠くもの |
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3級 | 上肢の障害 | 一上肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの 一上肢のおや指及びひとさし指を失ったもの又はおや指 若しくはひとさし指を併せ一上肢の3指以上を失ったもの |
下肢の障害 | 一下肢の3大関節のうち、2関節の用を廃したもの 両下肢の10趾の用を廃したもの |
上肢や下肢の障害では、肢体の欠損や機能障害が発生している範囲が、障害判定の重要な基準の一つとして取り入れられていることが分かります。
こうした要領で、障害等級の判定における基準が細かく定められているのが障害認定基準です。肢体の障害についての障害認定基準は、以下のリンクよりご確認いただけます。
3.肢体の障害における障害認定日
障害認定日に障害等級に該当する障害の状態にあるかどうかは、障害年金の受給要件の一つとなります。
原則、障害認定日は初診日(ケガや病気ではじめて病院を受診した日)から1年6ヶ月経過した日です。
ただし例外があり、症状が固定してしまったためにこれ以上の回復が見込めないと判断される場合には、初診日から1年6ヶ月経過していない日が、障害認定日と認められるケースもあります。
症状固定の代表的な例としては、以下のようなケースがあります。
- 人工関節・人工頭骨ヘ置換した日
- 肢体の一部を切断または離断した日
- 脳血管障害により機能障害を残しているときは、初診日から6ヶ月経過した日以降に、医学的な観点からそれ以上の機能回復が望めない場合
こうした場合には初診日から1年6カ月を待たずして、障害認定日と認められる場合があるのです。
4.肢体の障害における診断書作成時の注意点
障害年金の審査では診断書の内容と、障害認定基準を照らし合わせて障害等級が判断されるため、診断書は、最も重要な提出書類の一つといえます。
肢体の障害における診断書は、記載項目が他の傷病に比べて多く、障害の実態と記載内容との整合性を取るのが難しいといった特徴があります。
以下は肢体の障害の診断書の一部を抜粋したものです。
このように肢体の障害の診断書は、記載内容が多岐にわたります。
そのうえお医者さんは患者さんの生活状況の実態を全て把握しているわけではありません。整合性をうまく取りながら診断書を作成していくことは、専門家であるお医者さんにとっても困難なわけです。
4-1.診断書の内容は必ず確認する
お医者さんに依頼して書いてもらった診断書の内容は、必ずご自身またはご家族が確認しましょう。障害の実態と記載内容の整合性が取れた適切な診断書が受け取れるとは限らないからです。
お医者さんを疑えというわけではありませんが、前述した通りに実態の全てを把握して作成しているわけではないのも事実です。
もし病院から受け取った診断書をチェックせずにそのまま提出してしまうと、年金の金額が少なくなってしまったり、不支給になってしまったりする場合もあります。
病院から受け取る診断書は封筒に入っていても、封を切って中を確認することは問題ありません。
4-2.関節可動域・筋力と日常生活動作の記載内容の整合性を確かめる
お医者さんから作成してもらった診断書をチェックしたほうがよいといっても、見るべきポイントがよくわかりませんよね。
記述漏れや書き誤りのチェックはもちろんのこと、関節可動域・筋力と日常生活動作についての記載内容の整合性が取れているかどうかは確認しておくべき点です。
診断書裏面の以下の箇所が、関節可動域・筋力の評価と日常生活における動作の評価に該当します。
実態と診断書の内容にズレが生じやすい原因として、お医者さんが身体障害者手帳の診断書(意見書)の基準と障害年金の診断書の基準を混同してしまっているケースがあります。
身体障害者手帳の診断書(意見書)と障害年金の診断書とでは、例えば以下のように評価が異なります。
筋力の評価 | 障害年金 | 5段階評価(正常、やや減、半減、著減、消失) |
身体障害者手帳 | 3段階評価(消失又は著減、半減、正常又はやや減) | |
日常生活における動作の障害の程度の評価 | 障害年金 | 4段階評価(〇、〇△、△×、×) ※補助用具なしの状態で評価する |
身体障害者手帳 | 3段階評価(自立〇、半介助△、全介助又は不能×) |
このように身体障害者手帳よりも障害年金の評価の方が細分化されているため、実態に則した的確な評価をしてもらう必要があります。しかし、お医者さんの視点と実態に乖離があると、整合性が取れていない場合があるのです。
また日常生活における動作の障害の程度については、評価基準をしっかり理解しないで記載されている場合があります。
まず、杖や補助用具を使用しない状態で判断して記載してもらう必要があります。補助用具を使用した状態で記載されていないかどうかチェックする必要があります。
また◯や△を使用した、動作の4段階評価の基準を誤認している場合があります。
瞬間的に出来ても実用性に乏しければ△×か×の評価。両手で行う動作も片手で行う場合は、△×の評価。
動作が出来る場合でも、時間はかかっていないか、毎回できるか、自分で工夫をして行っていないかなども考慮されて、正しく評価が行われているかも点検しましょう。
診断書の記載内容と実態に違いがあると感じる場合には、再びお医者さんのもとを訪れ、相談することが大切です。
5.まとめ
この記事では、肢体の障害における障害年金の請求について解説しました。
障害年金の請求において、審査結果を左右する重要な書類である診断書は、医師に依頼して書いてもらう必要があります。肢体の障害については他の障害と比べても診断書の作成上の注意点が多くあります。
そのため、お医者さんからもらった診断書をご自身でもしっかりチェックしておく必要があるのです。
診断書のチェックポイントはこの記事でも紹介しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
また肢体の障害については認定基準も複雑であるため、ご自身が障害年金を受けられる状態にあるのか理解するのが難しい面があるかもしれません。
もし障害年金の請求についてお困りの方は、ぜひ当センターの無料相談をご利用ください。