発達障害で障害年金はもらえる?申請の際に押さえておくべき4つのポイント

発達障害によって、他者とのコミュニケーションに強い支障が出る場合、就労して安定的に収入を得ることが難しい場合があります。
しかし、いくつかの受給要件を満たせば発達障害は、障害年金の支給対象となります。障害年金を受給できれば、経済的な不安を解消することが可能です。
この記事では、発達障害における障害年金の受給要件や申請の際に留意すべきポイントを紹介しています。
最後までお読みいただきますと、発達障害で障害年金を受給する際に押さえておくべきことが、理解できるようになります。
1.障害年金とは?

障害年金は公的年金に加入している人が病気やケガを原因として、障害により働けなくなったり、仕事に制限を受けるようなときに支給される年金です。
病気やケガに起因する障害にとどまらず、発達障害のように20歳前に発症する障害であっても支給の要件を満たすと判定されれば、障害年金を受給できる場合があります。
実際に発達障害は、以下のように定義がなされています。
“発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものをいう。”
引用元:「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 第8節 精神の障害」
障害年金を受給できれば、発達障害を理由として日常生活に支障が出ている場合にも、経済的な援助が受けられるため、生活の安心感が大きく向上します。
障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、初診日に加入していた公的年金の種類によって、支給される年金が異なります。
障害基礎年金は、初診日に原則国民年金に加入している方がもらえる年金のことです。
自営業者やフリーランス、無職の方などが対象になります。また第3号被保険者である専業主婦や、20歳前に傷病を負った方も障害基礎年金の支給対象に該当します。
一方、障害厚生年金は初診日に厚生年金に加入している方を支給対象とした年金です。
障害厚生年金は障害基礎年金に比べて支給対象となる障害の範囲が広く、軽度の障害であっても支給される可能性があります。
なおこの記事では、障害年金制度については概要の解説にとどまっています。
障害年金の受給額や請求方法の種類といった、より詳細な情報を知りたい場合には以下の記事をご覧ください。
1-1.障害年金の受給要件
障害年金の受給要件は障害の種類や重さを問わず、障害年金を受給するために満たしていることが必要です。受給要件には以下の項目があります。
- 1. 初診日に原則公的年金に加入していること
- 2. 初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの期間において、3分の2以上保険料を納付または免除されていること。または初診日が令和8年4月1日前にある場合については、初診日において65歳未満であり、初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの一年間に保険料の未納がないこと。
- 3. 障害認定日に障害年金を受給できる障害の程度(障害等級)に該当すること
なお20歳未満の方と60歳以上65歳未満で日本国内に在住されている方は、公的年金の加入義務がありません(厚生年金被保険者である場合を除く) 。よって初診日に年金制度に加入していなくとも、障害年金が支給される場合があります。
1-2.障害年金を受給できる障害の程度とは?
発達障害ならば、誰でも障害年金が受け取れるというわけではありません。先に紹介した障害年金の受給要件の項目3.にあるように、発達障害の程度が障害等級1〜3級に該当する場合に支給が限られます。
また「障害年金の障害等級」と「障害者手帳の等級」については、制度や基準が異なる別物であることを押さえておきましょう。同じ制度であると、多くの方が誤認している点です。
「障害認定基準 第8節 精神の障害」では、各等級に相当するとされる障害の状態の目安が以下のように示されています。
障害の程度 | 障害等級 | 障害の状態 |
重 ↑ 軽 |
1級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの |
2級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの | |
3級 (障害厚生年金の対象者のみ受給を受けられる) |
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、 社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの |
発達障害によりコミュニケーションが困難であったり、社会性が欠如していたりする場合には、障害等級に該当する可能性が高くなります。
ここで紹介した事例はあくまで判定の目安です。実際には、障害認定の基準は細かく定められています。
次からは障害等級判定の流れを詳しくみていきましょう。
2.障害等級判定の流れ
障害等級の判定の流れとして、障害認定審査医員が「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」に基づき、障害等級を判定します。
障害等級の判定は障害の重さのみではなく、生活の実態についても総合的に考慮して進められるため「総合判定」と呼ばれています。
発達障害が軽度であったり就労していたりしても、障害が生活に与える影響の度合いが大きいと判定される場合には、受給に結びつく可能性があります。
2-1.「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」とは?
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン(以下、ガイドライン)」は、等級判定の地域差や不公平をなくすために策定されたものです。
現在は、障害認定基準 第8節 精神の障害とガイドラインを併せて判定されることになります。これから発達障害における障害年金の申請をするうえで、ガイドラインの内容をしっかり押さえておく必要があります。
次からはガイドラインの内容について詳しく解説します。
2-2.障害等級の目安
ガイドラインでは「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」という2種類の要素が考慮され、障害等級の目安が大まかに決まります。
障害等級の目安は以下のような表で表されます。
判定平均\程度 | (5) | (4) | (3) | (2) | (1) |
3.5以上 | 1級 | 1級又は2級 | |||
3.0以上3.5未満 | 1級又は2級 | 2級 | 2級 | ||
2.5以上3.0未満 | 2級 | 2級又は3級 | |||
2.0以上2.5未満 | 2級 | 2級又は3級 | 3級又は3級非該当 | ||
1.5以上2.0未満 | 3級 | 3級又は3級非該当 | |||
1.5未満 | 3級非該当 | 3級非該当 |
「日常生活能力の程度」の評価が横軸、「日常生活能力の判定」の評価が縦軸に示されており、2つの要素の交わるところが判定の目安となる障害等級です。
「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」は、障害年金の申請について最重要書類となる診断書の裏面に記載されています。そのためここでは、実際の診断書をお見せしながら解説します。
「日常生活能力の程度」については診断書で以下のように示されています。
(2)

診断書を作成する医師(以下、診断書作成医)が、(1)~(5)のうち日常生活の状況に近いと思われる項目を選択して記載することとなります。
- (1)精神障害(病的体験・残遺症状・認知障害・性格変化等)を認めるが、社会生活は普通にできる。
- (2)精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には、援助が必要である。
- (3)精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
- (4)精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。
- (5)精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。
(1)~(5)までのうち、どの項目に判定されたかによって「障害等級の目安」の横軸の位置が決まります。
(3)

一方「日常生活能力の判定」については診断書で以下のように示されています。
(4)

「日常生活能力の判定」においては、(1)~(7)までの項目のうち、それぞれ4段階評価で診断書作成医によって診断され、記載されます。
- (1)適切な食事
- (2)身辺の清潔保持
- (3)金銭管理と買い物
- (4)通院と服薬(要・不要)
- (5)他人との意思伝達及び対人関係
- (6)身辺の安全保持及び危機対応
- (7)社会性
それぞれの項目の評価の平均が、「障害等級の目安」の表における縦軸の位置に該当します。
(5)

このように「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」の平均を組み合わせて、どの障害等級に相当するか示したものが「障害等級の目安」なのです。
たとえば日常生活能力の程度が(3)、日常生活能力の判定の平均が2.8のケースで考えてみます。
(6)

この場合「障害等級2級又は3級」が障害等級の目安です。
2-3.総合評価の際に考慮すべき要素
「総合評価の際に考慮すべき要素」とは、診断書の記載項目(「日常生活能力の程度」「日常生活能力の判定」を除く)を5つの分野に区分し、分野ごとに総合評価の際に考慮することが妥当と考えられる要素と、その具体的な内容例を示したものです。
5つの分野とは以下のものを指します。
- 1. 現在の病状または状態像
- 2. 療養状況
- 3. 生活環境
- 4. 就労状況
- 5. その他
総合評価において、障害等級の目安は障害等級判定の決め手となる要素のひとつです。しかし、障害等級の目安のみで障害等級が決まるわけではありません。
診断書等に記載されている他の内容も含め、認定医によって総合的に障害等級が判断されるのが総合評価の趣旨です。

発達障害の観点から、総合評価の際に考慮すべき要素についてポイントとなる事項を紹介します。
1. 現在の病状または状態像
知能指数(IQ)が高くても、対人関係や意思疎通が円滑に行えない場合には等級判定の際に考慮されます。また臭気、光、音、気温などに対して、感覚過敏があるため、日常生活に制限が認められる場合にも、判定の際、考慮されます。
2. 療養状況
著しい不適合行動や、他の精神疾患が併存している場合には、その療養状態も考慮されます。
3.生活環境
在宅、または施設で常時個別の援助を受けている場合には、障害等級の評価の際に考慮されます。なお在宅であれば障害等級1級または2級、施設へ入所している場合には障害等級1級の可能性が検討されます。
4.就労状況
障害を理由として、以下のような状況にある場合には障害等級2級の可能性が検討されます。
- 仕事内容がもっぱら単純かつ反復的なものに限られている
- 他の従業員との意思疎通が困難なために、常時指導や管理を受けていたりする
- 執着が強く、臨機応変な対応が困難なため常時の管理・指導が必要である
5.その他
発育・養育歴、教育歴、専門機関による発達支援などが考慮されます。
「総合評価の際に考慮すべき要素」はガイドラインにて確認していただけます。ガイドラインのリンクを添付いたしますので、詳細を知りたい方はご利用ください。
日本年金機構『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』
3.発達障害で障害年金を申請する際の4つのポイント
発達障害で障害年金を申請する際のポイントは、以下の4つです。
- 初診日がいつにあたるか確認する
- お医者さんと積極的にコミュニケーションを取る
- お医者さんに作成してもらった診断書のチェック
- 病歴・就労状況等申立書は出生時から現在までの経過を書く
3-1.初診日がいつにあたるか確認する
障害年金の初診日とは、障害の原因になった傷病で初めて医師等の診療を受けた日です。発達障害についても、基本的にはこの考え方が適用され、発達障害で初めて受診した日が初診日となります。
しかし、以下のようなパターンの場合には、初診日が大きく異なるため注意が必要です。
- 発達障害より前に精神疾患の診断を受けている場合
- 知的障害を伴う発達障害の場合
それぞれ詳しく紹介します。
3-1-1.発達障害より前に精神疾患(うつ病または統合失調症)の診断を受けている場合
発達障害より前に精神疾患(うつ病または統合失調症)の診断を受けている場合は、発達障害で初めて受診した日ではなく、精神疾患で初めて受診した日が初診日となります。

発達障害より前に、精神疾患の診断を受けている場合には、精神疾患と発達障害とは「同一の傷病」とみなされることが多いためです。
しかし、精神疾患で受診してから長い期間が経っていたり、医療機関を転々としていたりする場合には、初診日の証明が困難になることがあります。
初診日の特定が難しい場合にどのように対処するかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
「障害年金における初診日とはいつのこと?留意すべき5つの事項も解説」の記事はこちら
初診日を特定する際にお悩みの方は、ぜひご覧ください。
3-1-2.知的障害を伴う発達障害の場合
知的障害を伴う発達障害の場合には、出生日が初診日となります。障害年金制度では、知的障害のような「生来の障害」については、生まれた日を初診日とするためです。
ただし、3級不該当程度の軽度の知的障害がある場合には、発達障害の症状により、初めて医師等の診療を受けた日が初診日として扱われますので気を付けましょう。
もし知的障害を伴う発達障害での障害年金申請を検討されている場合には、こちらの記事をご覧ください。
「肢体の傷病における障害年金の認定基準と、申請の注意点を徹底解説!」の記事はこちら
お読みいただきますと、知的障害で障害年金を申請する際に、知っておくべき留意点を理解できます。
3-2.お医者さんと、積極的にコミュニケーションを取る
請求する側が、お医者さんと積極的にコミュニケーションを図ることが、障害年金を受給するために重要です。
障害年金の審査方法は申請者から提出された書類による審査です。そのため障害認定基準の内容を理解して、適切な内容の書類をそろえる必要があります。
特に重要な書類である診断書には、お医者さんの客観的な目線で、障害等級の判定の肝となる日常生活の能力について、適切に反映してもらわねばなりません。
とはいえ短い診察時間のみで、お医者さんが生活の様子を把握することは困難です。
そのため申請する側から、「生活のどのようなところに、不自由や不便を感じているか」や「家族からは、どんなサポートを受けているのか」といった点を、お医者さんへ詳しく伝えねばならないのです。
このようにお医者さんとのコミュニケーションは障害年金の申請準備をすすめるうえで、欠かせないものです。発達障害の場合、ご自身がお医者さんと円滑にコミュニケーションを取ることが難しいといったことも想定されます。
そのため、状況に応じてご家族が診察の際に本人をサポートしながら、お医者さんに実態を伝えていく必要があるでしょう。
3-3.お医者さんに作成してもらった診断書のチェック
お医者さんに作成してもらった診断書は、チェックする必要があります。医療機関が作成してくれた書類だから安心だろうと過信して、そのまま年金事務所へ提出するのは危険です。
記入漏れや書き誤りなどの不備がある可能性がありますし、実態よりも症状や生活への影響が軽く書かれてしまっていることもあります。
不備については、年金事務所から返送されて修正指示を受けるのみで済みます。しかし、症状が軽く書かれていた場合にはそのまま受理されてしまうため、実際に受給できるはずだった年金額より少なくなったり、不支給になったりと審査の結果に影響を及ぼす可能性が高まります。
チェック後に修正して欲しい箇所を見つけた場合には、再度お医者さんの元を訪れ、修正の相談を行う必要があります。
3-4.病歴・就労状況等申立書は出生時から現在までの経過を書く

病歴・就労状況等申立書とは、発病から初診までの経過や、その後の受診状況、生活状況などをご自身、またはご家族が記入する書類です。
第三者の視点で書かれる診断書を、請求者の視点から補足する重要な役割を持ちます。障害年金の審査において、診断書と同様に重要な書類です。
具体的には未就学時、小学校、中学校、高校、高校以降は3〜5年のスパンに区切り、受診状況や生活状況を記入していきます。また受診していなかった時期がある場合には、自覚症状が少なかったり経済的に難しかったりと、なぜ受診をしなかったのかを書く必要があります。
また、発達障害と一緒に他の精神障害を併発している場合には、その旨も併せて記載しましょう。
病歴・就労状況等申立書は以下のページよりダウンロードできます。
「日本年金機構ホームページ | 病歴・就労状況等申立書を提出するとき」
4.障害年金の申請手続きの流れ
障害年金の申請手続きの大まかな流れは、以下のとおりです。
- STEP1.年金事務所で初回年金相談を受ける
- STEP2.医師に診断書の作成を依頼する
- STEP3.病歴・就労状況等証明書を作成する
障害年金の手続きにおける詳しい進め方について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
「障害年金申請手続きの6つのステップを解説!請求の流れをつかめる」の記事はこちら5.まとめ
この記事では、発達障害で障害年金を申請する際に知っておくべきことを解説しました。
発達障害で障害年金を申請する際には、障害の重さのみならず、日常生活へどのような不便や不自由が生じているかが重要となります。
障害年金の審査においては、お医者さんに作成してもらう診断書の内容が重要となります。そのためお医者さんに日常生活の状況をしっかり伝えて、適切な内容で診断書を作成してもらう必要があるのです。
また、病歴・就労状況等申立書もしっかりご自身の状況に即した内容で書いていく必要があります。
このように障害年金の申請においては、留意すべきことが多いため「自分には難しそう」と感じるかもしれません。ご自身で障害年金の準備が難しいときには、公的年金制度のプロである社労士に、申請代行を依頼する手段があります。
障害年金申請代行を利用すれば、障害年金の申請におけるご自身の負担を減らしながら、年金受給の可能性を広げることができます。
なお障害年金申請についてお困りの際は、当センターの無料相談をご利用ください
6.当センターでの発達障害における受給事例
当センターに障害年金申請代行のご依頼をいただき、障害年金受給に結びついた事例を一つご紹介いたします。症状や生活の状況などを、ぜひ参考にしてください。
事例. 注意欠陥多動障害・うつ病(30代女性)
年金の種類 | 障害基礎年金2級 |
請求方法 | 事後重症請求 |
年金額 | 年間約100万円 |
女性は幼少期から人よりうっかりミスをすることが多く、学生時代は期限通りに宿題や提出物を提出することが出来ませんでした。いつも忘れ物が多くて、周りに迷惑だといじめられたという辛い経験をされています。
高校卒業後には一人暮らしを始めましたが、部屋の片づけ方が分からず部屋に虫が湧いてしまうことが多く、業者に頼んで年に2回程度掃除・片付けをしてもらっていました。仕事でもミスが多く、空気が読めないなどと同僚に責められることがあったそうです。
その後結婚を経験しますが、育児や家事はやはり夫に任せきりという状況にありました。
数年前に家族が亡くなったことをきっかけに抑うつ状態となり、病院を受診したところ注意欠陥多動障害(ADHD)とうつ病の診断を受け治療を開始しました。現在は障害年金を受給しつつ、日常的な家族の援助を受けながら、自宅での療養に専念しています。