障害年金における初診日とはいつのこと?留意すべき5つの事項も解説
障害年金の請求において、初診日は大変重要な要素です。
そのため障害年金を請求するうえでは、初診日の概念についてしっかり押さえる必要があります。この記事では、初診日とはいつのことを指すのかや、留意事項について詳しく解説します。
この記事を読めば、障害年金制度における初診日について正確に押さえられます。
1.障害年金の受給において初診日が重要な理由
障害年金の受給要件を知ることで、初診日がいかに重要であるかについて深く理解できます。障害年金を受給するためには、原則として以下の4つの受給要件を満たすことが必要です。
- 初診日に原則公的年金に加入していること
- 初診日の前日のある月の前々月までの期間において、3分の2以上保険料を納付または免除されていること
- 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの一年間に保険料の未納がないこと
- 障害認定日に障害年金を受給できる障害の程度(障害等級)に該当すること
項目1のように、初診日の時点に加入している年金制度の種類によって、受け取れる障害年金の種類も変わります。
初診日に国民年金に加入している場合には、障害基礎年金のみを受け取れます。一方、厚生年金に加入している場合には、障害基礎年金に加えて障害厚生年金も受給できるのです。
項目2、3は保険料の納付要件です。初診日に公的年金に加入しているだけではなく、保険料の納付状況にも基準が設けられています。もし納付要件を満たしていない場合には、障害年金は受給できません。
なお項目2、3の保険料の納付要件はどちらかを満たしていれば大丈夫です。
納付要件は初診日の前日時点での納付状況で判断されます。仮に初診日以後に、過去の未納分の年金をさかのぼって納めたとしても、納付要件を満たさない場合があります。いざというときに確実に障害年金を受け取るためにも、日頃から期日を守って年金を納める必要があるのです。
項目4の障害認定日も、初診日を基準にして決まります。障害認定日は、原則初診日から1年6ヶ月を経過した日です。
このように初診日はいずれの受給要件とも関連性を持つため、障害年金の請求にとって重要な要素といえます。
2.初診日とはいつのこと?
初診日は、日本年金機構において以下のように定義されています。
障害または死亡の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日をいいます。同一の病気やけがで転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日が初診日となります。
つまり障害の原因になった傷病で初めて医師等の診察を受けた日を、初診日と呼びます。
なお医師等とは具体的には、医師と歯科医師の2者です。一方で整骨院やほねつぎ、鍼灸院での施術は、医師等の診療にはあたらず初診日として認められません。
ここで初診日の具体的な例示を紹介します。
①初めて診療を受けた日(治療行為または療養に関する指示があった日)
②同一の傷病で転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日
③過去の傷病が治癒し同一傷病で再度発症している場合は、再度発症し医師等の診療を受けた日
④傷病名が確定しておらず、対象傷病と異なる傷病名であっても、同一傷病と判断される場合は、他の傷病名の初診日が対象傷病の初診日
⑤じん肺症(じん肺結核を含む。)については、じん肺と診断された日
⑥障害の原因となった傷病の前に相当因果関係があると認められる傷病があるときは、最初の傷病の初診日が対象傷病の初診日
⑦先天性の知的障害(精神遅滞)は出生日
⑧先天性心疾患、網膜色素変性症などは、具体的な症状が出現し、初めて診療を受けた日
⑨先天性股関節脱臼は、完全脱臼したまま生育した場合は出生日が初診日、青年期以降になって変形性股関節症が発症した場合は、発症後に初めて診療を受けた日
引用:「国民年金障害基礎年金受付・点検事務の手引き | 日本年金機構 」
3.初診日の決定において留意すべき4つのポイント
初診日の決定においては、留意すべきポイントが4つありますので詳しく解説します。
3-1.健康診断について
健康診断を受けた日については、原則として初診日とは扱われません。健康診断を受けたあとに、医療機関を初めて受診した日が初診日にあたります。
ただし例外として以下のような場合には、健康診断の日が初診日と認められることがあります。
初診時の医師の証明が添付できない場合で、医学的見地からただちに治療が必要と認められる健診結果である場合。
以上の場合に、健診日を証明する資料(人間ドックの結果など)を提出したうえで、ご自身で健診日を初診日とするように申し立てることができます。
3-2.相当因果関係について
相当因果関係とは、前の傷病がなければ、後の疾病は起こらなかったであろうと認められる関係性のことを指します。
障害の原因となった傷病のまえに、相当因果関係が認められる別の傷病を発症している場合には前後の傷病を同一のものとして取扱います。
そのため、相当因果関係の認められる傷病のうち、前の傷病で初めて医師等を受診した日が初診日にあたります。
ここでは障害年金において相当因果関係が認められることが多い例示を紹介します。
①糖尿病と糖尿病性網膜症又は糖尿病性腎症、糖尿病性壊疽(糖尿病性神経障害、糖尿病性動脈閉鎖症)は、相当因果関係ありとして取り扱います。
②糸球体腎炎(ネフローゼを含む)多発性のう胞腎、慢性腎炎に罹患し、その後慢性腎不全を生じたものは、両者の期間が長いものであっても、相当因果関係ありとして取り扱います。
③肝炎と肝硬変は、相当因果関係ありとして取り扱います。
④結核の化学療法による副作用として聴力障害を生じた場合は、相当因果関係ありとして取り扱われます。
⑤手術等による輸血により肝炎を併発した場合には、相当因果関係ありとして取り扱います。
⑥ステロイドの投薬による副作用で大腿骨頭無腐性壊死が生じたことが明らかな場合には、相当因果関係ありとして取り扱います。
⑦事故又は脳血管疾患による精神障害がある場合は、相当因果関係ありとして取り扱います。
⑧肺疾患に罹患し手術を行い、その後、呼吸不全を生じたものは、肺手術と呼吸不全発生までの期間が長いもので合っても、相当因果関係ありとして取り扱います。
⑨転移性悪性新生物は、原発とされるものと組織上一致するか否か、転移であることを確認できたものは、相当因果関係ありとして取り扱います。
引用:「国民年金障害基礎年金受付・点検事務の手引き | 日本年金機構 」
しかし、以下のケースは相当因果関係なしとして取り扱われることが多くあります。
①高血圧と脳出血又は脳梗塞は、相当因果関係なしとして取り扱います。
②近視と黄斑部変性、網膜剥離又は視神経萎縮は、相当因果関係なしとして取り扱います。
③糖尿病と脳出血又は脳梗塞は、相当因果関係なしとして取り扱います。
引用:「国民年金障害基礎年金受付・点検事務の手引き | 日本年金機構 」
高血圧と脳出血・脳梗塞は医学的には因果関係があるとされています。しかし、障害年金の観点では相当因果関係がないことになっているため、注意が必要です。
3-3.再発・継続・社会的治癒について
過去の傷病と同一の傷病を発症した場合、再発なのか継続なのか、または社会的治癒が認められるかによって、初診日が異なります。
再発
過去の傷病が治癒したあとに、再び同じ傷病が発症したケースを再発と呼びます。
再発した場合には過去の傷病とは別の傷病として扱われ、上のように、再発してからはじめて医師等を受診した日が初診日にあたります。
継続
過去の傷病が治癒したと認められない場合は、傷病が継続しているものとして扱われます。
例えばご自身の判断で、受診を中止した場合には傷病は継続しているものと考えられることがあります。
その後、症状が悪化して再受診をした日については初診日とみなされず、当該傷病で最初に受診した日が初診日に指定されます。
社会的治癒
社会的治癒とは医学的にみて過去の傷病が治癒していなくても、症状が安定していて、長期的に自覚症状や他覚症状に異常がなく、普通に生活や就労ができている期間が一定期間あるような状態です。
社会的治癒に該当する場合には、文字通りに治癒したとみなされ、再び悪化するなどして社会的治癒期間の後に、医師等の診療を最初に受けた日が初診日として扱われます。
社会的治癒に該当するかどうかは、診断書や病歴・就労状況等申立書など障害年金請求の際に必要となる書類の内容によって個別に判断されます。社会的治癒を証明するためにカルテ開示をしたり、会社や友人・知人の証言書を任意提出したりするといったケースもあります。
3-4.知的障害について
先天性の知的障害のように生来の障害については、「出生日 = 初診日」です。
成人してから、病院を受診してはじめて知的障害と診断された場合であっても「出生日 = 初診日」という考え方に変わりはありません。
しかし、発達障害(アスペルガー症候群やADHD〈注意欠如・多動症〉など)については初診日の考え方が異なります。
まず知的障害と発達障害の両方を発症している場合には、出生日が初診日となります。
一方で、知的障害を伴わない発達障害であったり、知的障害の程度が障害年金の受給に該当しないくらいに軽度だったりする場合には、医師を初めて受診した日が初診日となるのです。
正しく初診日を特定するためにも、発達障害で障害年金の申請を行う際には、知的障害を伴っているかどうか、医師に確認しておく必要があります。
なお知的障害における障害年金請求につきましては、こちらの記事にて詳しく解説しています。
軽度の知的障害で障害年金は受給できる?認定基準や申請の際の注意点を解説
4.初診日の証明書類「受診状況等証明書」
診断書を作成してもらう医療機関と、初診の医療機関が異なる場合には、初診日を証明するために、受診状況等証明書という書類を障害年金請求時に添付する必要があります。一方、初診の病院で診断書を作成してもらう場合には、受診状況等証明書は必要ありません。
通常、受診状況等証明書は、初診の医療機関で作成してもらうことになります。
4-1.初診の病院で、初診日が証明できない場合
初診日から年月が経っている場合には、初診の病院でカルテが破棄されていて受診状況等証明書が作成できないといったケースがあります。(カルテの法定保管期間は5年)
こうした場合にも障害年金請求をあきらめることなく、講じられる手段がありますので紹介します。
具体的には「受診状況等証明書が添付できない申立書」をご自身で作成する必要があります。
「受診状況等証明書が添付できない申立書」とは、本人の記憶や手元に残っている手がかりとなる資料などをもとに、初診日を申立てていく書類です。
しかし、医療機関が作成する「受診状況等証明書」と比べ、ご自身で作成する「受診状況等証明書が添付できない申立書」では、信ぴょう性が低くなってしまいます。
初診日を特定する客観的な根拠となる資料を一緒に添付することで、受診状況等証明書が添付できない申立書の内容に対する信ぴょう性を補強する必要があります。
参考資料として利用できる書類には以下のようなものがあります。
- 身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳
- 身体障害者手帳等の申請時の診断書
- 生命保険、損害保険、労災保険の給付申請時の診断書
- 交通事故証明書
- 労災の事故証明書
- 事業所の健康診断の記録
- 健康保険の給付記録
- 病院紹介状
- 電子カルテ等の記録
- お薬手帳、糖尿病手帳、領収書、診察券
- 第三者証明
- その他(緊急搬送の証明書、家計簿等)
このように参考資料と「受診状況等証明書が添付できない申立書」を元に、受診状況証明書がなくとも初診日として認められることがあります。
また初診日の年月までは参考資料で特定できるけれども、日付のみが特定できないといった場合には、月の末日が初診日として取り扱われることがあります。
受診状況等証明書が添付できない申立書のダウンロードはこちらから
5.まとめ
この記事では障害年金制度における、初診日について詳しく解説しました。
初診日は、障害年金の受給要件と深く関わる重要な要素です。原則としては障害の原因となった傷病で初めて医師等を受診した日が初診日です。
また初診の医療機関と診断書を作成してもらう医療機関が異なる場合には、初診日の証明のために受診状況等証明書が必要となります。
その他、初診日を特定する際に留意していただきたい点については、この記事で詳しくまとめておりますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
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