ペースメーカー装着時の障害年金受給について知っておくべきことを徹底解説
心臓にペースメーカーを装着する場合には、原則障害等級3級に該当します。
しかし、障害等級3級に該当する場合、障害厚生年金の対象者は障害年金を受給できますが、障害基礎年金の対象者については障害年金を受給できません。
ただし心疾患の状態によっては、障害等級3級より上位等級で認定を受けられるケースもあります。そのため「障害基礎年金を受給される方がペースメーカーを装着する場合には障害年金を受給できない」と一概には言えません。
この記事では、障害年金制度の概要とペースメーカー装着時の障害年金受給について押さえておくべき点について解説します。
なお障害年金の受給に至った場合の受給額や請求方法の種類など、障害年金制度についてさらに理解を深めたい場合には、以下の記事をご覧ください。
1.障害年金とは?
障害年金は原則、公的年金に加入している人が病気やケガを原因として、障害により働けなくなったり、仕事に制限を受けるようなときに支給される年金です。
障害年金を受給できれば経済的な援助が受けられるため、障害を抱えてしまった際にも、生活の安心感が大きく向上します。心疾患を患いペースメーカーを装着する場合にも、一定の要件を満たせば障害年金を受給できる可能性があります。
1-1.障害基礎年金と障害厚生年金
一口に障害年金といっても障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があります。初診日に加入している公的年金の種類によって、支給対象となる年金の種類が異なります。初診日とは、日本年金機構において以下のように定義されています。
障害または死亡の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日をいいます。同一の病気やけがで転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日が初診日となります。
つまり障害の原因になった傷病で、初めて医師等の診察を受けた日を初診日と呼びます。
障害基礎年金は、初診日に原則国民年金に加入している方がもらえる年金のことです。自営業者やフリーランス、無職の方などが対象者です。また第3号被保険者である専業主婦や、20歳前に傷病を負った方も障害基礎年金の支給対象に該当します。
一方、障害厚生年金は初診日に厚生年金に加入している方を支給対象とした年金です。障害厚生年金は障害基礎年金に比べて支給対象となる障害の範囲が広く、軽度の障害であっても支給される可能性があります。
障害年金制度においては、障害の状態を元にして障害等級の判定が行われます。
障害等級は1〜3級まで存在しており、1級が最も障害の重い状態、3級が軽度の状態を示すわけです。
障害等級が高くなるほど障害年金の受給額も高額になります。障害年金を受給できるか否かが、障害等級によって左右されることもあるのです。
具体的に解説すると障害基礎年金の受給対象者は、障害等級1級または2級に該当する場合にのみ障害年金が受給できます。障害等級3級に該当する状態では、障害年金は受給できません。
一方で障害厚生年金の受給対象者であれば、障害等級3級に該当する際に障害年金を受給できます。そのため、ご自身が障害基礎年金の対象なのか、障害厚生年金の対象なのかしっかり調べておく必要があるのです。
2.障害年金における3つの受給要件
障害年金の受給要件は障害の種類や重さを問わず、障害年金を受給するために満たす必要があります。
受給要件は以下の3種類です。
- 初診日要件
- 保険料納付要件
- 障害状態該当要件
それぞれの受給要件について詳しく解説します。
2-1.初診日要件
初診日要件として「初診日に原則公的年金に加入している」必要があります。
初診日は、日本年金機構において以下のように定義されています。
障害または死亡の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日をいいます。同一の病気やけがで転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日が初診日となります。
つまり障害の原因になった傷病で初めて医師等の診察を受けた日を、初診日と呼びます。
この初診日に厚生年金に加入しているのか、国民年金に加入しているのかによって受給できる障害年金の種類は変わります。そして、公的年金に加入していない方は障害年金を受給できません。
ただし20歳未満の方と60歳以上65歳未満で日本国内に在住されている方は、そもそも公的年金の加入義務がありません。初診日に公的年金制度に加入していなくとも、障害年金を支給される場合があります。
2-2.保険料納付要件
保険料納付要件は、障害年金を受給するために定められた保険料納付状況の基準です。
具体的な内容を以下に示します。
- 初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの期間において、3分の2以上保険料を納付または免除されていること。
- 初診日が令和8年4月1日前にある場合については、初診日において65歳未満であり、初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの一年間に保険料の未納がないこと。
上記のいずれかを満たす必要があります。
原則として障害年金を受給するためには、初診日の前日時点で年金保険料を保険料納付要件の基準以上に納めていることが必須です。
2-3.障害状態該当要件
障害年金を受給するためには、障害の状態が障害等級に該当する程度である必要があります。これを障害状態該当要件と呼びます。
ここで気になるのは、障害等級はどのように決められるのかということではないでしょうか?障害等級は日本年金機構に所属する認定医が、障害認定基準に基づいて等級判定を行います。
障害等級は障害の種類や検査の数値によってあらかじめ決められているものもあれば、症状の重さや日常生活の状況を総合的に判断されるものもあります。具体的な認定項目については、障害認定基準に明示されているわけです。
心臓ペースメーカーを装着する場合、障害等級がどのように決まるかについては後ほど解説します。
3.ペースメーカーを装着する場合の障害認定日の特例
ペースメーカーを装着する場合には「障害認定日の特例」が適用され、通常より早く障害年金を受給できるケースがあります。障害認定日とは、初診日から1年6ヶ月経過した日です。
原則として、障害認定日を迎えたときに障害年金を受給できる状態にあれば、請求を行えます。障害認定日から3ヶ月以内に取得した診断書を添付して、1年以内に障害年金請求を行うことを「認定日請求」と呼びます。
障害認定されれば、障害認定日の翌月分から障害年金を受給できます。しかし、裏を返せば、初診日から1年6ヶ月待たなければ障害年金は受給できないわけです。
しかし、心疾患の障害認定基準には以下のような文言があります。
心臓ペースメーカー、又はICD(植込み型除細動器)、又は人工弁を装着した場合の障害の程度を認定すべき日は、それらを装着した日(初診日から起算して1年6月を超える場合を除く。)とする。
このように初診日から1年6ヶ月経つ前にペースメーカーを装着した場合には、通常より早く障害年金を受給できます。
4.ペースメーカーを装着する場合の障害等級
ペースメーカーを装着する場合の障害等級は、原則3級とされています。しかし、ペースメーカーは、機器や療法の違いによっていくつかの種類に区別されます。ペースメーカーの種類によっては2級に該当するケースもありますので、ここで確認しておきましょう。
障害等級 | ペースメーカーの種類 |
2級 | CRT(心臓再同期医療機器) CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器) |
3級 | ペースメーカー、ICD(植込み型除細動器) |
このようにペースメーカーの種類によって障害等級は異なります。
本来、ペースメーカーの治療は脈拍の遅い病気を持った患者に対して行う治療方法です。しかし、CRTは目的が異なり、心臓のポンプ機能に障害を持った方に対して用いられます。重度の心疾患(重症心不全)を抱えた方向けの治療方法と考えられるため、原則障害等級2級の判定を受けられるのです。
一方で通常のペースメーカー治療の場合は、原則障害等級3級に該当するとされています。
先述の通り、障害等級3級に該当する場合には障害基礎年金の対象者については、障害年金を受給できません。しかしこうした場合に申請を直ちに諦めてしまうのではなく、心疾患の障害認定基準を確認していただきたいと考えます。
障害認定基準には障害等級の判定に関する考え方が明記されています。そして心疾患の状態が障害等級1級、2級に該当する状態にあれば、障害基礎年金の対象者でも障害年金を受給できる可能性があるからです。
もちろん障害厚生年金の対象者も障害等級3級で認定を受けるより、2級で認定を受けたほうが多くの障害年金を受給できるため、障害認定基準を確認しておくべきです。
5.心疾患の障害認定基準
心疾患の障害認定基準を紹介します。以下は障害がどのような状態にあれば障害等級に該当するかをあらわした、各等級ごとの例示です。
令別表 | 障害等級 | 障害の状態 |
国 年 令 別 表 | 1級 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
2級 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの | |
厚 年 令 別表第1 | 3級 | 身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの |
いくつか、耳慣れない用語もあるかと思いますのでここで要約します。
障害等級1級の例示「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度」とは?
他人の介助を受けなければほとんど自分の用事を済ませられない状態を指します。例えば身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできなかったり、生活の範囲がベット周辺に限られたりする場合は、障害等級1級に該当する可能性があります。
障害等級2級の例示「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」とは?
必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活が困難なため労働により収入を得ることができない状態を指します。 例えば簡単な家事(軽食作りや下着の洗濯等)はできるけれども、 それ以上の活動はできなかったり、活動範囲が家の中に限られたりするような場合は、障害等級2級に該当する可能性があります。
ただし、上の表で示しているのはあくまで障害判定の基準となる一例にとどまります。例えば「働いているから2級で認定は受けられない」とは、必ずしも言い切れません。実際には心疾患の障害認定基準に記載のある認定要領の内容も加味されたうえで、障害等級が認定されることになります。
5-1.心疾患の認定要領
先述の通り障害認定基準は、あくまで等級判定の例示にとどまります。認定基準を補うための具体的な事項を定めた「認定要領」を併せて確認することで、より正確に障害等級判定の考え方を理解できます。
臨床所見、検査成績、一般状態区分表(日常生活の状態)の評価を、心疾患の種別ごとに設けられた障害等級表に当てはめて障害等級を判定するのが、心疾患における認定要領の流れです。
障害年金制度において心疾患の種別は、以下の7種類に区分されます。
- 弁疾患
- 心筋疾患
- 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
- 難治性不整脈
- 大動脈疾患
- 先天性心疾患
- 重症心不全
上記の疾患ごとに障害認定基準が定められており、自身の疾患にあてはまる基準の内容を理解する必要があるわけです。
次からは心疾患の認定要領について具体的に解説します。
臨床所見・検査成績・一般状態区分表について解説
心疾患の種類を問わず、共通して等級判定に関わる要素である「臨床所見」「検査成績」「一般状態区分」について解説します。
①臨床所見
心疾患の臨床所見は自覚症状と他覚所見に区別されます。
自覚症状
動悸 ・呼吸困難 ・息切れ ・胸痛 ・咳 ・痰 ・失神
他覚所見
チアノーゼ ・浮腫 ・頚静脈怒張 ・ばち状指 ・尿量減少 ・器質的雑音
心疾患の障害年金申請において使用することになる「循環器疾患の診断書」には、以下のように臨床所見の評価欄が設けられています。
このように無・有・著の3段階、または無・有の2段階で評価されることになります。
②検査成績
循環器疾患の診断書には、検査数値の記載箇所があります。
以下のA~Iに該当する場合、心疾患の検査での異常検査所見を示すと判定されます。
区分 | 異常検査所見 |
A | 安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは 0.5mV以上の 深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの |
B | 負荷心電図(6Mets 未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの |
C | 胸部X線上で心胸郭係数 60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性 肺水腫のあるもの |
D | 心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能 の制限、先天性異常のあるもの |
E | 心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの |
F | 左室駆出率(EF)40%以下のもの |
G | BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が 200pg/ml 相当を超えるもの |
H | 重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に 50%以上の狭窄、あるいは、3 本の主要冠 動脈に 75%以上の狭窄を認めるもの |
I | 心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの |
③一般状態区分表
一般状態区分表とは、障害が日常生活にどの程度影響を与えているかをもとにして、障害の重さを区分するための表です。
区分 | 一般状態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
診断書においては一般状態区分表の評価項目が記述されています。
ア〜オのうち、お医者さんの客観的な視点から適当と判断された項目が選択されることになります。しかし短い診察時間のみで、お医者さんが生活の様子を把握することは困難です。実際よりも軽い状態で評価されてしまう可能性もあります。
そのため事前に、患者の立場からお医者さんへと日常生活の状況を詳しく伝えていかねばなりません。
また、上記の一般状態を身体活動能力(メッツ)に換算すると以下のようになります。
区分 | 一般状態 | Mets |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの | 6Mets以上 |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など | 4Mets 以上6Mets 未満 |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの | 3Mets 以上4Mets 未満 |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの | 2Mets 以上3Mets 未満 |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの | 2Mets 未満 |
メッツとは、身体活動の強さを安静時の何倍に相当するかで表す単位です。
座って安静にしている状態が1メッツとして、歩行はその3倍の3メッツに相当します。メッツは循環器内科で計測してもらえる数値で、一般状態(日常生活の状態)区分の評価の目安です。
心疾患の種類別の障害認定基準
ここまで紹介してきた臨床所見・検査成績・一般状態区分表の評価を、心疾患の種類別に設けられた、障害認定基準に当てはめて障害等級が判定されます。
心疾患は7種類の疾患に区別されますが、ここではペースメーカーを装着するケース症例の多い難治性不整脈に絞って障害認定基準を紹介します。その他の症例については日本年金機構「第11節/心疾患による障害」より確認できます。
難治性不整脈等級表
難治性不整脈の等級表は以下の通りです。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 | 1.異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの 2.異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち2つ以上の所見及び病状を あらわす臨床所見が 5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 | 1.ペースメーカー、ICDを装着したもの 2.異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち 1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が 1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
【補足事項】
難治性不整脈とは、放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、 適切な治療を受けているにも拘わらず、それが改善しないものを言う。
心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とはならないが、心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となる。
6.障害年金の申請手続きの流れ
障害年金の申請手続きの大まかな流れは、以下のとおりです。
- STEP1.年金事務所で初回年金相談を受ける
- STEP2.医師に診断書の作成を依頼する
- STEP3.病歴・就労状況等証明書を作成する
障害年金の手続きにおける詳しい進め方について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
「障害年金申請手続きの6つのステップを解説!請求の流れをつかめる」の記事はこちら
7.まとめ
ペースメーカーを装着する場合、原則障害年金3級の認定を受けられます。
とはいえ障害基礎年金の受給者の場合、障害等級3級では障害年金を受給できません。しかしこうした場合にも、障害年金の受給を諦めてしまうのはまだ早いかもしれません。
心疾患の障害等級基準において、障害の状態が1級または2級に該当する状態にあれば、障害年金を受給できる可能性があります。具体的には臨床所見・検査成績・一般状態区分表の評価を、心疾患の種別の障害認定基準に当てはめて、障害等級の判定がなされる仕組みになっています。
そのため、障害認定基準の確認はぜひ行っていただきたいところです。ただし障害認定基準を確認したところで、ご自身が障害年金の受給できる状態にあるかよく分からない場合があるかと思います。
この場合、年金制度のエキスパートである「社会保険労務士」に相談することをおすすめします。
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