障害年金と失業保険は合算して受給できる?併給調整の有無や審査への影響について解説

病気やケガで退職してしまったときには、失業保険の失業手当や障害年金を受給できる可能性があります。
障害年金は病気やケガで日常生活や就労に支障がある際に、受け取れる場合があります。一方の失業手当は、労働の意思や能力があることを条件として受給できる制度です。
障害年金と失業手当では給付の目的が異なるものの併給調整の規定はないため、両方の制度から一緒に受給できるケースがあります。
この記事では障害年金と失業手当の関係性や、どういった場合に合算して受給ができるかについて解説しています。
1.障害年金と失業手当には併給調整の規定がない
社会保険の給付制度のなかには、同一の原因で2つ以上の制度から給付を受けられる場合に、支給額が調整される仕組みが取られているものがあります。
この仕組みを併給調整と呼びます。
たとえば「傷病手当金と障害年金」「生活保護と障害年金」などは、併給調整の仕組みが取り入れられています。<
併給調整の仕組みが取られている場合、いずれかの制度の支給額が減額されたり、支給停止になったりします。一方で、障害年金と失業手当を併給できる場合には、調整を受けるといった規定はありません。
つまり障害年金と失業手当の支給額を合算して受け取れる場合があるということです。
なお障害年金とその他の制度との併給調整について知りたい場合には、こちらの記事をご覧ください。
「障害年金受給のデメリットとメリットをわかりやすく解説!」の記事はこちら
障害年金と併給調整を受ける給付制度の種類や、具体的な調整内容を知ることができます。
2.失業手当と障害年金の概要
失業手当と障害年金の概要について解説します。
2-1.失業手当の概要

失業手当は雇用保険から支給される求職者給付の一つで、正確には基本手当と呼びます。(便宜上この記事では、失業手当という名称を用いて解説します)
失業手当の一般的なイメージとしては「失業してから次の就職先が決まるまで、ハローワークから支給される支援金」というものではないかと思います。
ただし失業手当は「ただ失業したから」といって支給されるものではありません。支給要件を満たしている場合にのみ支給されます。
以下はハローワークのホームページに記載されている、支給要件の一部を抜粋したものです。
ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること。
引用元:ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
このように、就職への積極的な意思といつでも就職できる能力があるけれども、自分の努力やハローワークの力を借りても就職できないといった場合に、失業手当を受給できます。
2-1-1.就職できる能力を証明する書類「就労可能証明書」
就労可能証明書とは就職希望者が持つ能力や資質、障害の有無などを証明する書類です。
前職を退職した理由が、傷病による体調不良に起因するものだった場合には、失業手当を受給するために、就労可能証明書をお医者さんに作成してもらう必要があります。
就労可能証明書にも記載があるように、就職できる能力の有無は「週20時間以上の就労」ができるかどうかで明確に判断されます。
傷病を負っているためにフルタイムの就労は難しくとも、週20時間以上なら働けるといった場合には、就職できる能力があるとみなされ、失業手当の受給要件を満たします。
2-1-2.失業手当を受給する際に押さえておきたい「就職困難者」について
障害者手帳を持つ人や、統合失調症などの精神疾患がある人などは、失業手当の受給において就職困難者に区分されます。
なお、統合失調症、躁うつ病(そう病、うつ病含む)、てんかんを患っている人は精神障害者保険福祉手帳がなくとも医師意見書があれば就職困難者へ区分されます。
就職困難者に該当する場合には、失業手当を受けるときに以下のような優遇措置を受けられます。
- 失業手当を受給するために必要な求職活動の回数が、4週間に2回のところ、4週間に1回に緩和される
- 失業手当の支給日数が、通常の受給者よりも多くなる
- 就職が決まった際に、常用就職支度手当がもらえる
このように就職困難者に区分される場合には、失業手当において優遇措置が受けられる点を押さえておきましょう。
2-2.障害年金の概要
障害年金は公的年金に加入している人が、病気やケガを原因として一定の障害状態になったときに、支給される年金です。障害により働けなくなったり、仕事に制限を受けたりするときに受け取れます。
障害年金を受給するためには、以下のような受給要件を満たしている必要があります。
- 初診日に原則公的年金に加入していること
- 初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの期間において、3分の2以上保険料を納付または免除されていること。または初診日が令和8年4月1日前にある場合については、初診日において65歳未満であり、初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの一年間に保険料の未納がないこと。
- 障害認定日に障害年金を受給できる障害の程度(障害等級)に該当すること
以上の要件を満たすことで、障害年金を受給できます。
3つ目に紹介した障害等級には1級〜3級まであり、いずれかに該当する障害の程度であることが支給要件の一つです。1級が最も重い障害、3級は軽度の障害を示し、障害等級に応じてもらえる年金額は異なります。
障害等級は、傷病ごとに定められた障害認定基準に基づいて総合的に判定されます。
障害認定基準には就労に関する記載も設けられており、働いていても障害年金が受給できるケースもあります。
たとえば従事する業務が単純作業に限定されていたり、勤務時間が短く設定されていたりといった配慮を勤務先から複数受けているような場合には、おおよそ障害等級3級に該当することがあります。
なお障害年金制度の概要について詳しく知りたい方は、こちらの記事を併せてご覧ください。
「障害年金とは?」の記事はこちら
3.知的障害における受給要件は2つ

前述のとおり、障害年金と失業保険の失業手当については併給調整の規定がありません。
そのため労働能力が以下の要件を満たしている場合には、障害年金と失業手当を一緒に受給できる可能性があります。
障害年金:病気やケガはあるものの、制限や配慮があれば働ける
失業手当:週20時間以上働ける能力がある
もし病気やケガで20時間以上の勤務が難しい場合には、ハローワークに申し出て失業手当の受給期間延長手続きを行うのがおすすめです。
最大4年まで受給期間を延長できるため、働ける状態になるまで、失業手当の受給を保留にしておけます。延長している期間は障害年金を受給しながら、療養に専念できるのです。
3-1.労働能力の有無が障害等級の認定に関係しない傷病
労働能力の有無が障害等級の認定にほとんど影響しない傷病もあります。これらの傷病に該当している場合には、雇用保険と障害年金を両方もらえます。
例えば視力障害や聴力障害など、障害の程度が検査数値で表される傷病については、数値に応じて障害等級が決められています。また心臓に人工弁を装着していたり、人工透析を受けている場合にも、あらかじめ障害等級が設定されています(人工弁は障害等級3級。人工透析は障害等級2級)。
こうした傷病を患っている方が労働能力を十分に有していたとしても、障害年金の審査へはほとんど影響しません。求職中に障害年金と失業手当を問題なく併給できます。
4.まとめ
この記事では、障害年金と失業手当の併給について解説しました。
障害年金と失業保険には併給調整の規定がありません。
障害の程度が検査数値で表される傷病や、人工弁を装着していたり人工透析を受けていたりする場合には労働能力と関係なく、失業保険と障害年金を合わせて受給できます。
またその他の傷病においても、労働能力において失業手当と障害年金いずれの要件も満たす状態にあれば、一緒に受け取れる場合があります。
もし体調が悪くてすぐに働けない場合、すぐに失業手当を受給することは難しいかもしれません。ただし失業手当の受給期間を延長するといった手立てはあります。
受給期間を延長している間は、障害年金を受給して傷病の治療に専念するといった手段もありますので、ぜひ検討してみましょう。