軽度の知的障害で障害年金は受給できる?認定基準や申請の際の注意点を解説

知的障害のお子様が20歳になると、障害年金を受給できる場合があります。
しかし、障害年金は制度や受給の要件が複雑なため、お子様が受給できるかどうかよくわからないといった方は多いのではないでしょうか?特にお子様が療育手帳で軽度の知的障害に区分されている場合は、受給すべきかどうかなおさら悩むところだと思います。
結論として、軽度の知的障害であっても障害年金の受給に結びつくケースがあります。
障害年金は障害の重さのみではなく、生活や就労の実態も考慮されたうえで総合的に障害等級が判定される制度だからです。
この記事では知的障害における障害年金申請について、障害等級がどのように決められているかや、請求を行う際の注意点について解説しています。
最後までお読みいただきますと、お子様の障害年金申請の準備を進める際に知っておくべきポイントを押さえられます。
目次
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3-1受給要件1.年齢
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3-2受給要件2.障害の程度
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4-1-1障害等級の目安
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4-1-2総合評価の際に考慮すべき要素
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1.障害年金とは?

障害年金は公的年金に加入している人が、病気やケガを原因として障害により働けなくなったり、仕事に制限を受けるようなときに支給される年金です。
ただし知的障害のように、公的年金に加入する年齢に至っていない、先天的な障害についても支給要件を満たせば障害年金の支給対象となります。
なお障害年金制度において知的障害は、以下のように定義がなされています。
知的障害とは、知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に持続的な支障が生じているため、何らかの特別な援助を必要とする状態にあるものをいう。
引用元:「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 第8節 精神の障害」
障害年金を受給できれば、障害を理由として日常生活に支障が出ている場合にも、経済的な援助が受けられるため、生活の安心感が大きく向上します。
障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、通常は初診日に加入している公的年金の種類によって支給される年金が異なります。知的障害は生来の障害のため、原則初診日は出生日と定義されます。知的障害のように初診日に年金の加入義務がない20歳前の傷病については、障害基礎年金の支給対象です。
障害基礎年金の支給額について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
「障害年金とは?」の記事はこちら
2.軽度の知的障害では障害年金は受給できない?
療育手帳で「軽度」と区分されている方は、障害年金が受給できるかどうかについては非常に気になる点ではないでしょうか?
しかし、療育手帳と障害年金では判定の基準が異なります。
そのため最重度や重度に判定されている状態と比較すると受給できる可能性は下がるものの、軽度で判定されている場合にも、障害年金を受給できているケースはあります。
療育手帳の判定は、知能テストを通して行われるものです。テストの結果算出される知能指数(IQ)の数値をもとに、重度や軽度など、知的障害の重さが区分される仕組みになっています。
一方で障害年金制度における等級判定において、知能指数は判定に考慮される様々な要素の一つにしか過ぎません。
知的障害の重さのみではなく、日常生活や就労実態への影響度を様々な角度から総合的に判断して、障害等級が決められます。
そのため療育手帳では軽度の知的障害と判断されていたとしても、生活に支障が大きく援助が必要と判断されれば、支給に結びつく可能性があるのです。
3.知的障害における受給要件は2つ
知的障害においては、以下の2つの要件を満たせば障害基礎年金を受給できます。
- 1. 年齢
- 2. 障害の程度
3-1.受給要件1.年齢
障害年金を受給される方の年齢は20歳以上であることが、知的障害における受給要件のひとつです。具体的には20歳になる誕生日の前日に障害認定日(=障害の状態を定める日)を迎え、障害年金の請求を行えるようになります。
3-2.受給要件2.障害の程度
知的障害の方なら誰でも障害年金が受け取れるというわけではありません。知的障害の程度が、障害等級1級または2級に該当する場合に支給が限られます。
「障害認定基準 第8節 精神の障害」では、各等級に相当するとされる障害の状態が以下のように示されています。
障害の程度 | 障害等級 | 障害の状態 |
重 ↑ 軽 |
1級 | 知的障害があり、食事や身のまわりのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活が困難で常時援助を必要とするもの |
2級 | 知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの | |
3級※障害基礎年金の支給に該当せず | 知的障害があり、労働が著しい制限を受けるもの |
表に記した通りに、障害等級3級に該当する方は障害基礎年金の支給対象になりません。よって知的障害で障害年金を受給できるのは、1級または2級に該当する方に限られます。
障害認定基準の詳細については以下のページをご覧ください。
日本年金機構ホームページ「第8節/精神の障害」
4.障害等級判定の流れ
障害等級の判定の流れとして、障害認定審査医員が「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」に基づき、障害等級を判定します。
障害等級の判定は障害の重さのみではなく、生活の実態についても総合的に考慮して進められるため「総合判定」と呼ばれています。
知的障害が軽度であったり就労していたりしても、障害が生活に与える影響の度合いが大きいと判定される場合には、受給に結びつく可能性があります。
4-1.「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」とは?
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン(以下、ガイドライン)」は、等級判定の地域差や不公平をなくすために策定されたものです。
現在は、障害認定基準 第8節 精神の障害とガイドラインを併せて判定されることになります。これから知的障害における障害年金の申請をするうえで、ガイドラインの内容をしっかり押さえておく必要があります。
次からはガイドラインの内容について詳しく解説します。
4-1-1.障害等級の目安
ガイドラインでは「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」という2種類の要素が考慮され、障害等級の目安が大まかに決まります。
障害等級の目安は以下のような表で表されます。
判定平均\程度 | (5) | (4) | (3) | (2) | (1) |
3.5以上 | 1級 | 1級又は2級 | |||
3.0以上3.5未満 | 1級又は2級 | 2級 | 2級 | ||
2.5以上3.0未満 | 2級 | 2級又は3級 | |||
2.0以上2.5未満 | 2級 | 2級又は3級 | 3級又は3級非該当 | ||
1.5以上2.0未満 | 3級 | 3級又は3級非該当 | |||
1.5未満 | 3級非該当 | 3級非該当 |
「日常生活能力の程度」の評価が横軸、「日常生活能力の判定」の評価が縦軸に示されており、2つの要素の交わるところが判定の目安となる障害等級です。
「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」は、障害年金の申請について最重要書類となる診断書の裏面に記載されています。そのためここでは、実際の診断書をお見せしながら解説します。
「日常生活能力の程度」については診断書で以下のように示されています。
(2)

診断書を作成する医師(以下、診断書作成医)が、(1)~(5)のうち日常生活の状況に近いと思われる項目を選択して記載することとなります。
- (1)知的障害を認めるが、社会生活は普通にできる
- (2)知的障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には援助が必要である。
- (3)知的障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
- (4)知的障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。
- (5)知的障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。
(1)~(5)までのうち、どの項目に判定されたかによって「障害等級の目安」の横軸の位置が決まります。
(3)

一方「日常生活能力の判定」については診断書で以下のように示されています。
(4)

「日常生活能力の判定」においては、(1)~(7)までの項目のうち、それぞれ4段階評価で診断書作成医によって判定され、記載されます。
- (1)適切な食事
- (2)身辺の清潔保持
- (3)金銭管理と買い物
- (4)通院と服薬(要・不要)
- (5)他人との意思伝達及び対人関係
- (6)身辺の安全保持及び危機対応
- (7)社会性
それぞれの項目の評価の平均が、「障害等級の目安」の表における縦軸の位置に該当します。
(5)

このように「日常生活能力の程度」と「日常生活能力の判定」の平均を組み合わせて、どの障害等級に相当するか示したものが「障害等級の目安」なのです。
たとえば日常生活能力の程度が(3)、日常生活能力の判定の平均が3.2のケースで考えてみます。
(6)

この場合「障害等級2級」が障害等級の目安です。なお知的障害での年金申請においては、障害等級3級と判定された場合の年金支給はありません。
4-1-2.総合評価の際に考慮すべき要素
「総合評価の際に考慮すべき要素」とは、診断書の記載項目(「日常生活能力の程度」「日常生活能力の判定」を除く)を5つの分野に区分し、分野ごとに総合評価の際に考慮することが妥当と考えられる要素と、その具体的な内容例を示したものです。
5つの分野とは以下のものを指します。
- 1. 現在の病状または状態像
- 2. 療養状況
- 3. 生活環境
- 4. 就労状況
- 5. その他
総合評価において、障害等級の目安は障害等級判定の決め手となる要素のひとつです。しかし、障害等級の目安のみで障害等級が決まるわけではありません。
診断書等に記載されている他の内容も含め、認定医によって総合的に障害等級が判断されるのが総合評価の趣旨です。
(7)

知的障害の観点から、総合評価の際に考慮すべき要素についてポイントとなる事項を紹介します。
1. 現在の病状または状態像
知能指数(IQ)は総合判定の際に考慮されます。ただし知能指数のみに着眼するわけではなく、生活における援助の必要度も含め、総合的に検討されます。
2. 療養状況
著しい不適合行動や、他の精神疾患が併存している場合には、その療養状態も考慮されます。
3.生活環境
在宅、または施設で常時個別の援助を受けている場合には、障害等級の評価の際に考慮されます。なお在宅であれば障害等級1級または2級、施設へ入所している場合には障害等級1級の可能性が検討されます。
4.就労状況
障害を事由として、仕事内容がもっぱら単純かつ反復的なものに限られていたり、他の従業員との意思疎通が困難なために、常時指導や管理を受けていたりする場合には、障害等級2級の可能性を検討されます。
5.その他
発育・養育歴、教育歴、療育手帳の有無とその区分が考慮されます。
中高年になってから知的障害が判明して請求する場合には、幼少期の状況が考慮されます。幼少期の状況は療育手帳により確認されるのが一般的です。
しかし、療育手帳がない場合には養護学校や特殊学級の在籍状況や通知表などを通して客観的に確認できれば、障害等級2級の可能性が検討されます。
「総合評価の際に考慮すべき要素」はガイドラインにて確認していただけます。ガイドラインのリンクを添付いたしますので、詳細を知りたい方はご利用ください。
日本年金機構『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』
5.障害年金の申請手続きの流れ
(8)
障害年金の申請手続きの大まかな流れは、以下のとおりです。
- STEP1.年金事務所で初回年金相談を受ける
- STEP2.医師に診断書の作成を依頼する
- STEP3.病歴・就労状況等証明書を作成する
障害年金の手続きにおける詳しい進め方については、以下の記事をご覧ください。
「障害年金の手続きについて」の記事はこちら
なお知的障害における障害年金申請手続きの進め方は他の障害と異なる点があります。まずはお近くの年金事務所へ、電話で相談することをおすすめします。
6.知的障害における障害年金申請の4つの注意点
知的障害における障害年金申請の注意点を4つ紹介します。
- 20歳に達した日の前後3ヶ月以内の診断書が必要
- 診断書を作成してもらう病院はあらかじめ探しておく
- 診断書の内容は必ず確認する
- 受診状況等証明書は知的障害での障害年金申請には不要
総じて、診断書にまつわる注意点が多くなっている点は、障害年金申請における診断書の重要度の高さを物語っています。
6-1.20歳に達した日の前後3ヶ月以内の診断書が必要
知的障害で障害年金を請求する場合には、20歳に達した日の前後3ヶ月以内に病院に診断書を作成してもらう必要があります。
20歳に達した日の前後3ヶ月以内の診断書で、障害年金を請求する方法を障害認定日請求(本来請求)と呼びます。請求の結果、障害等級1級または2級に認定されれば、20歳に達した日の翌月分から障害年金を受け取ることができます。
ここで「20歳の誕生日の3ヶ月以内に診断書を作成してもらっていない場合は、障害年金の請求はできないの?」という疑問が発生するかもしれません。
20歳に達してから3ヶ月経過した後に障害年金の請求をされる方については、事後重症請求という手段をとれます。なお事後重症請求を行う場合には、請求日前3ヶ月以内の日付の診断書が必要となります。
事後重症請求のメリットとして、その時点の障害状態をもとに作成してもらった診断書で請求が行えます。
一方デメリットとして、請求が遅れた分だけ障害年金の金額が減ってしまう点が挙げられます。20歳に達した日の翌月から支給の開始される認定日請求と異なり、事後重症請求は、請求日の翌月から障害年金の支給が開始されるためです。
例えば30歳の方が事後重症請求を行う場合を考えてみましょう。
30歳の時点で障害年金の支給が開始されるため、20歳から受け取れるはずだった障害年金は受け取れないことになるのです。
6-2.診断書を作成してもらう病院はあらかじめ探しておく
前述の通り、知的障害で認定日請求を行う場合には、20歳に達する日の前後3ヶ月以内の日付の診断書を病院で作成してもらう必要があります。
とはいえ継続的な通院をされておらず、障害年金の請求に際して病院を探しはじめるといったケースは多いものです。
しかし、診断書を作成してもらえる病院がなかなか見つからないといった事態がしばしば起こります。また病院の方針として、何度かの受診を通して様子を見てから、はじめて診断書を作成してくれるケースもあります。
病院探しが難航すると障害年金の請求も遅れてしまう可能性があるため、20歳の誕生日を迎える前に精神科にいくつか問い合わせをして、診断書を作成してもらう病院の目星をつけておくのがスムーズです。
6-3.診断書の内容は必ず確認する
診断書は障害年金の審査結果を左右する最重要書類ですので、医療機関が作成したものだからと過信せずに、必ず内容を確認しましょう。
人が作成する書類のため、記載ミスや記入漏れが生じている可能性があります。
また記載内容と、症状や就労などの実態がかけ離れている場合もあります。そのまま提出してしまうと、実際より障害等級が低く判定されたり、障害年金が不支給になったりする恐れがあるため注意が必要です。
もし修正が必要な箇所がある場合には、お医者さんに相談する必要があるでしょう。
6-4.受診状況等証明書は知的障害での障害年金申請には不要
初診日を証明するために必要になる受診状況等証明書は、知的障害における障害年金申請では不要となります。
通常の障害年金申請においては、当該傷病の初診日が証明されていることが受給要件となります。そのため転院をしながら治療を進めている場合には、初診の病院で受診状況等証明書を書いてもらわなければなりません。
しかし、知的障害については「初診日 = 出生日」と明確なため、初診日を証明する必要がありません。よって受診状況等証明書を揃える必要がないわけです。
7.まとめ:障害年金は知的障害の重さだけでなく、生活状況も考慮されて支給が決まる

この記事では、知的障害で障害年金を申請する際に知っておくべきことを解説しました。
知的障害における障害年金は、20歳の誕生日前日から請求を行うことができます。しかし実際に受給を受けられるかどうかは、障害の程度が障害等級1級または2級に該当しているかどうかが重要となります。
障害年金の受給に結びつけるためには障害等級の認定基準を理解したうえで、適切な内容の診断書をそろえる必要があります。
しかし、お子さんの状態と認定基準を照らし合わせてみても、受給できるのかどうかわからなかったり、正しい内容の診断書を揃えるのが困難だったりと、いろいろ悩まれる場合があるかと思います。
当センターでは、障害年金のご相談や障害年金の申請代行を承っておりますのでお気軽にご利用ください。
以下のリンクよりお問い合わせフォームをご利用いただけます。
8.当センターでの知的障害における受給事例
当センターに障害年金申請代行のご依頼をいただき、障害年金受給に結びついた事例をいくつかご紹介いたします。就労や生活の状況などを、ぜひ参考にしてください。
8-1.事例1. 精神遅滞(20代女性)
年金の種類 | 障害基礎年金2級 |
請求方法 | 障害認定日請求 |
年金額 | 年間約78万円 |
生活の状況 | 就労移行支援施設で就労中 / 家族と同居 |
女性は生まれつき運動や言葉などの発達がゆっくりでした。人が大声で話をしていると突然泣いてしまったり、苛々すると自分の頭をかきむしったりといった症状が出ます。小学校では普通学級に入学したものの学習についていけず、3年生のときから特別支援学級に通っていたそうです。
障害の重さとしては、小学校4年生の時に愛の手帳を取得した際に4度(軽度)に判定されていましたが、高校卒業後には3度(中度)に変更になっています。
就労状況としては、就労移行支援を受け清掃の仕事を行っています。簡単な会話のやりとりはできるが仕事に必要な報告・連絡・相談は難しい場合があります。生活面ではお金の計算やスケジュール管理等も一人で行うことが出来ず、両親からサポートを受けて暮らしている状況です。
8-2.事例2. 精神遅滞(20代男性)
年金の種類 | 障害基礎年金2級 |
請求方法 | 障害認定日請求 |
年金額 | 年間約78万円 |
生活の状況 | 就労継続支援施設へ通所 / グループホーム入居 |
男性は生後間もなく軽度の知的の遅れが認められ、発話も殆ど出来なかったことから、言語指導を受けながら幼少期を過ごしました。小学校は特別支援学級、中学校・高校は特別支援学校へ通学していたそうです。
18歳の時に愛の手帳は4度(軽度)から3度(中度)へ変更となり、高校卒業後は現在のグループホームへ入所。就労継続支援B型作業所に通所して、箱の組み立てやシール貼りなどの作業を行なっています。
毎日の作業内容について指示・見守りといった配慮を受けながら作業をしているのが実態です。
生活の面では自分の名前は漢字で書けるものの、住所、電話番号、家族の名前などは分からず、人から教わっても覚えられません。一人での外出は難しく、日常生活の大部分において、グループホーム職員の援助を受けながら生活を続けている状況です。